もう一度、描くこと楽しさを教えてくれたこと、そして渡すことの出来なかったが、彼に宛てた手紙を書き上げてくれたこと。

 私はヒトデのペンを取り出すと、感謝の気持ちを伝えていた。

 ありがとうね、あなたがいなければ今までのような可愛いイラスト私には描けなかった。
 おかげさまで良い勉強になったわ。

 それと正に宛てた手紙だけど、なんだか違うように捉えてくれたみたい。
 ごめんなさい。せっかく書いてくれたのに。でも本当にありがとう。

 ここで出会った不思議なペン。私はこの子を以前から知る友人のように思っていた。
 蘭が先ほどの電話から戻ると、緊張した面向きで言葉をかけている。

「京子さん、お母さんから電話です」

「お母さんから?」

 突然の母からの電話に驚いていた。
 ほんの些細のことなら、連絡などしないはず。
 母に何かあったのだと思い、慌てて電話に出ていた。

「お母さん、どうしたの?」

 受話器から聞こえた母の声は、いつになく神妙に聞こえていた。

「京子、月下明里さんの妹さんが来られて、今日の夕方に水路横のベンチで待っているって。どうしても大事なことを伝えたいらしいいのよ」

 月下明里さん? 誰のことだろう? 私は初めて聞く名前に戸惑っていた。

「ちょっとお母さん。月下さんって私、知らないけど」

「でも一度会ったことがあるって言ていたわよ、しずくさんって方よ、おぼえていない?」

 心配する母同様に、私は理由のわからない不安がこみ上げていた。


 夕方に水路横のベンチに向かうと、そこには以前会った茜の妹。しずくさんが現われていた。
 困惑する私はゆっくり彼女に近づくと、どんな言葉をかけたのか覚えていないほどだった。

 緊張に似た不安な気持ちは、心臓が締め付けられる思いをしていたことだけは記憶に残している。
 そして、彼女が話し始めた内容に、時が止まったかのような錯覚を見せていた。