外国に旅立つた正を見送り数週間が経っていた。
 籍を入れ安心を与える約束をしてくれたのは、考えも付かなかった結果であった。

 平穏とも取れる業務中、資材置き場から帰ってきた蘭は少し困り顔で私に問いかけてきた。

「京子さん、以前資材置き場に鉛筆の束が有ると言っていましたが、どの辺に置いてありましたか」

「確か一番奥の、上の方だったと思ったけど」

 何も気に留める事なく立ち上がると、改めて二人で資材置き場に近づいていった。
 別に意識などしていなかったが、蘭は先ほどとは違い心なしか笑みを浮かべている。
 視線が合いもしやと思うと、噴き出すように笑ってしまっていた。

「ちょっと、本当は資材置き場に一人で入るのが怖くて、嘘をついたんでしょう」

「違いますよ、本当に見つからなかったんです」

 大袈裟な明るい言い訳は、誤魔化していることを諦めている。
 
「えー怪しーなぁー」

「有る物が突然消えちゃうなんて、やっぱりあの部屋、何か変ですよ」

 不貞腐れた言い訳だったが、横目で見る限りうつむきながらも微笑んでいる。 
 友人として接している今の現状に、私までもが微笑んでしまっていた。
 
 ジリッリッリッリン、ジリッリッリッリン。 
 
 話しながら資材置き場の扉に手をかけると、事務所の電話が私達を呼び止めていた。

「鉛筆は私が見つけるから、電話に出てくれる」

「はーい」っと、軽く返事をし小走りに向かって行く。私は一人資材置き場の中に入っていった。

「確かこの辺に」 

 鉛筆を探しながら移動していると、ペンと出会った場所で足が止めていた。
 何故か今、別れの時が近づいているような気持ちになっている。 
 手紙を最後にヒトデのペンは書けなくなっていたが、今も肌身離さず持ち歩いている。