顔を上げてくれたことに安心すると、再び声をかけていた。

「鳥さん気持ちよさそうね」

「ホーホーホッホー、ホーホーホッホー」

 鳴き声の聞こえる方角を探しながら、少女は木を指差し答えてくれた。

「フクロウ?」

 私もそうだと認識していたが、改めて考えるとこんな所にフクロウがいるのだろうか? 動物好きの定なら。
 どうなの? っと訴えるように彼の方に顔を向けた。

「違うよ。キジバトだよ」

「鳩ってポッポッポッて鳴くんじゃないの? それで豆鉄砲でしょ」

「京子。何かがごっちゃになってるよ」

 私達は軽く手を振りながら、少女から離れ歩き出した。
 数歩離れながらも、度々振り返り少女をみてしまう。

 可愛い子。お絵描きを楽しんでるなんて、子供の頃の私みたい。

 その子は絵を描く手が止まると、家の中に向かい声をかけていた。

「ねえ、ママ、チューリップ描いて」

 母親は忙しそうにその子に待っているようにと、声だけが聞こえる。
 保育園にでも行く準備をしているのだろうか?
 気になった私は少女の前に戻ると、その場にしゃがみ話しかけていた。

「お姉ちゃんが、描いてあげるね」

 少女は目を合わせることなく、無言のままゆっくりとチョークを渡してくれた。
 小さな指から受け取ると、私は目を閉じ数秒間頭の中でイメージをする。

 子供のころから描きなれているチューリップ。彼女を喜ばすことだけを考えた。
 彼女のほんの数分。イヤ、数秒でもいい、ほんの僅かな時間でも私の描く絵で喜んでもらえたら。
 何故だか喜びが込み上げるような気持ちになり、地面にチョークを当てていた。

 花びらは包み込むように重ね葉は細く長く。茎は少ししなるように描き、全体を影と光の部分を表現するように色付けをした。
 チョーク全体を使い、丁寧に丁寧に実物に負けない花を地面に咲かせた。

「こんな感じでいいかな?」