目的の場所に着く間、私は正に問いかけていた。

「部屋に有った手紙なんだけど……」

 とっさに取り上げたが、何処まで読んだのだろう。
 後ろ姿の正を見つめ、偽りでつづった内容に、私は後悔をしていた。

「京子、三日後に俺旅立つけど、当初の場所と違いもっと安全な隣国に変更してもらったから」

 話の途中であるが、想像しなかった言葉に嬉しくなっていた。

「最初にもらった手紙で、俺考えたんだ。医療施設の建築はもちろんだけど、日本に早く戻ることや、安全に安心してもらえるように頑張るべきじゃないかと、だから俺、旅立つ間色々と話し合って、準備していたんだ」

「どうして? どうして色々考えてくれたの」

「あははっ。何言ってんだよ、最初の手紙に書いてあったじゃないか。苦しみ悩みながらも、今を乗り越え、今を楽しめって。すごい誤字脱字だったから、解読するのに一苦労だったよ。中間で好き好き好きーって書いてあるし」

「ちょっと、そんな事、私書いて……」

 連れてこられた場所は、最寄りの区役所だった。

「ここって」

「京子、今すぐ結婚しよう。時々だけど手紙も書くから。そして二年だけ待ってくれないか、そしたら二度と京子から離れないから」

 目の間に出されたのは、私の名前を書き込むだけになっていた婚姻届けだった。

 嬉しかった。結果引き止めることは出来なかったが、安全な場所に変更になったことと、何よりも私のことを考えてくれたことが、嬉しかった。

「でも、早すぎたね、役所が開くまで一時間も有るよ」

「……」

 私達は結婚の手続きを済ませると、お互いの会社に電話をかけることにした。

「先生、すみません。連絡が遅くなりました。突然ですが私、結婚することになりました。イェーイ」

 浮かれ、はしゃぐ報告に、先生は喜ぶように心よく承諾してくれた。電話の向こうではイメージとは違う、蘭の大きな声も聞こえる。

「京子さん、おめでとうございまーす」

「ありがとう。エヘッヘッ……ヘッ……ウェーーーー」

 祝福の声が聞こえると、溢れんばかりの喜びが押し寄せてしまい、電話先にもかかわらず声を出し泣いてしまった。

 私はこの日、霞京子から森川京子に名前が変わったのだった。