翌朝、窓から差し込む明るい光と、かすかに聞こえる踏切の音に目を覚まされていた。
 机にうずくまるような姿勢で、どうやらそのまま泣き疲れ寝てしまったみたいだ。

 そこまで疲れていたのだろうか? 
 
 少し落ち込みながらも記憶をたどると、誘われるかのように眠りに着いたのは覚えている。

 涙を流し、気が晴れたのだろうか?

 上体を起こし、涙とよだれで濡れた顔を手で拭うと、昨晩書いた手紙を探していた。

 あれ、手紙はどこだろう。しまった記憶は無いのに。

 机の上には、ヒトデのペンは存在するが、置いてあるはずの手紙は無くなっていた。

「おはよう、京子」

 机の周りを探す私の背後からは、正の声が聞こえてきた。

「おはよう、ちょっと待ってて、今大事な」

 もうろうとなりながらも挨拶を返していたが、正が部屋に居ることに驚いた。

「何で正が部屋に居るのよ」

 振り返ると、正は立ち上がったまま私の書いた手紙を読んでいた。
 驚く私の声にも反応することもなく、真剣なまなざしで読んでいる。
 何故か気まずくなると、ちゅうちょしながらも手紙を取り上げていた。

「ちょっと、勝手に見ないでよ」

「ごめんごめん、でも俺宛への手紙だろ」

「それとこれとは別よ、まだ渡すと決めてないわ」

 不貞腐れる私に対し、正は笑みを浮かべている。

「なあ京子。前にもらった手紙なんだけど、気になったから確認しに来たんだ」

「前に渡した手紙?」

「うん、誤字脱字が多いせいか、何か読み返すたび文書が代わって行くような。それに最後の文書。そこが特に京子らしく、夏に話したこと、実行してくれたんだろう?」

 困惑し沈黙する二人だったが、正は私の手をつかむと、勢いよく声をかけた。

「出かけよう京子」

 突然の言葉に戸惑った。

「出かけるって、どこ行くのよ」 

「いいから!」

 行き先を告げられないまま、出かける準備をすると、久しぶりにつなぐ手に、戸惑いは消えて行った。