デザインや服装。小物の形になど興味はないはずなのに。

 同じ目線で会話を広げてくれた、正に嬉しく思い感謝していた。

 ふと視線を彼の隣の席に移すと、使い古しの肩掛けカバンの他に、書類が入っていると思われる大きな封筒が目に入った。
 そこには総合医療施設と文字が書かれている。

「今日は病院施設の打ち合わせだったの?」

「ああっ、建築する参考資料だよ。今日は医療スタッフや、患者の動線。まあ、簡単に言えば、効率良く人が移動するためのレイアウトの話をしてきたんだよ」

 彼は私の言葉に書類を取り出すと、パンフレットに印刷された写真を見せてくれた。
 そこには英語の文字の下に、日本語で書かれた翻訳文書などが書かれている。

「へー、英語で書かれているから、国際的ね」

 軽く首を振ると、パンフレットに印刷された国旗を指差していた。

「違うよ、ドイツだよ」

 改めて英語表記だと思っていた文字を見直すと、その文字はドイツ語で書かれていた。

「これは以前違う国で建てられた施設だけど、これから行く」

「なんでドイツなの? アメリカとかじゃないの?」

 茜の向かう先を思い出し、発言の途中にもかかわらず、質問を投げかけていた。
 慌て出た言葉に、気になることを察してくれたのか、彼は落ち着き言葉を返してくれる。

「医療に関してドイツは先進国なんだよ。世界中の医療はドイツから学んでいるし、お医者さんが書いているカルテも、よく見るとドイツ語なんだよ」

 私はその時、抑え込んでいた茜のことを話さずにはいられなかった。安心する言葉を聞きたかったのかも知れない。
 医療の先進国だから、大丈夫だと声をかけてもらいたかったのかも知れない。
 私情を知らない友人のことを、相談するように話していた。

「正、私の友達が治療でドイツに行ったの。よっぽど症状が悪いのかな? 私心配で」

 正は落ち着いた表情のまま、言葉を考えてくれているようだった。
 料理が目の前に置かれても、私達は手を付けることも無く、しばらくの間沈黙を続けていた。