落ち着いた場所で話をすることも考慮し、和食専門店に入って行った。
 注文を済ませた後、元気のない私を察したのか、正は心配した言葉を掛けてくれた。

「京子。表情がさえないけど、何かあった?」

 思わず、「実は」っと、相談しそうになっていたが、他人事のように心配する正のキョトン顔を確認すると、ワラワラと怒りが込み上げるようだった。

「あんた、よくその口から言えるわね! そりゃそうでしょ、元気も無くなるわよ。夢叶わなかった私を置いて、仕事で……ボランティアで危険な外国に行く彼氏が目の前にいるのですから」

 悪態を付くと、正はまったくだと頷き、少し微笑みを浮かべていた。

「まあ、それもそうだけど、最近はこれよ、このペン。お気に入りだったんだけどインクが突然出なくなっちゃって」

 バックからヒトデのペンを取り出すと、正は受け取り、様々な方向からペンを観察していた。

「インクが出ていたってことは、補充する構造だよね、どこからインクを入れるのだろう? わからないなー外国製かな」

 正はペン先をネジたり、引っ張ったりして、分解できないか確認をしていた。
 力任せに、がさつに扱う行動に、おもむろに取り上げていた。

「ちょっと壊さないでよ、私のヒトデのペン」

 正は、ごめんっと、反省する仕草を見せていたが、疑問がるように答えていた。

「ヒトデ?」

「そうよ、ヒトデのペン。このマーク可愛いでしょう」

 顔に近づけるように星形の印を見せると、目を凝らし、納得したように答えた。

「あーそのマーク、ヒトデだったんだ。てっきり」

「失礼します」

 話の途中、店員さんが準備のため箸置きを置くと、それを見て正は気づいたように微笑み、話題を変えた。

「京子、この箸置き変わった形している。プロの目から見てどう思う?」

 彼が言うその形は、植物のつくしの形を表現したものだった。
 瀬戸物で出来ていて全体的に着色をぼやかし、絵の具を使ったかのように、わざと色むらを再現していた。

「可愛いと思うは、多分量販しているものを、購入したと思うけど遊び心が有っていいんじゃない」

 その言葉に箸置きをつまむように手に取り、角度を変えるようにして微笑んでいた。

「だって、それが同じ黄緑色の芋虫だったら、箸を置きたくないもの」

 その微笑みは苦い物に変わり、早々と元の場所に戻していた。