季節は冬。
 クリスマスムードで盛り上がる十二月。
 私の一方的な気持ちのせいで、正の決断を否定するような形のまま、一年近くが過ぎ去ってしまっていた。

 後数日もすれば、このまま日本から旅立ってまう。
 彼の気持ちを考えれば、最後ぐらい顔を合わせ、話し合うのが筋って物だろう。

 スッキリしないままのボランティア活動では、申し訳ないし。
 何よりも彼のような施設を作るものが居なければ、充分な医療を受けられない者も出てしまう。
 
 仕事を終えた私達はこの日。久しぶりに会うため、駅で待ち合わせをしていた。
 一人改札を抜けた後、壁際に寄り添うように立っていると、その前を数多くの人々が通り過ぎて行く。
 
 仕事帰りの者や、これから仕事に出かける人、学生服姿の子供もいれば、これから遊びやお酒を飲みに出かけるのだろうか? 数人で会話をしながら歩く人もいる。
 様々な人たちが行き交う中、やたら私の目に映りこむのは、幸せそうに笑顔でいる男女達だった。

 あの笑顔の中でも悩みを抱えていると思うが、果たしてその悩みは私とどれくらいの違いがあるのだろうか? 
 何故か自分以外は皆幸せで、自分以外は着々と、実現させたい夢に近づいているように考えてしまう。

 アナウンスが流れ意識させると、駅のホームに電車が到着する。
 溢れんばかりの人々が、電車から走るように降りてくる。私はその中から正のことを探していた。

 見覚えのある容姿に、小さな安心みたいなものが生まれる。彼も私に気付き小さく手を挙げた。
 人の流れから逃れるように抜け出すと、呆れるように笑ていた。

「凄い人だね、乗り換えの有る終点駅ともなると、この時間は人でごったがえしているね」

「本当。年末だからって言うのもあるかもね」

 守るように私の背中に、そっと彼の手が触れていた。
 人の流れを途切れるのを確認している。私はそんな些細な行動が嬉しく思えた。

「行こうか」

 彼の合図で私達は歩き出した。

 駅ビルの上層部に有るレストラン街で、私達はショーウインドウに飾られたメニューを見ていた。
 洋食店や和食店。麺類や揚げ物を専門に扱うお店もあり、どれも美味しそうに見え目移りしてしまうほどだ。