会うことの出来なかった茜の旅立ちの日から数カ月がたち、季節は冬に差し掛かっていた。 
 いまでも時折考えてしまう、あの茜の手紙。
 何故病気のことには触れていなかったのだろうか? 妹のしずくさんの発言からは、まるで別人のような感じてしまう。

 しずくさんも何故あの時、このヒトデのペンを見て驚き、涙をながしていたのだろうか? 私はそんなことを職務中にもかかわらず今も考えている。

 目線の先では、出かけ先から戻ってきた守君が映っていた。
 彼も私に気付くとすぐさま目線をそらし、深刻な表情のままその場で立ちすくんでいた。
 守君はこの日、先日私が担当した色鉛筆のパッケージデザインを、先方に診せに足を運んでくれていた。

 意を決したかのように近寄って来る仕草を見ると、良い返事ではないことがわかるようだった。
 そして、彼から出る発言を、覚悟を決める思いで待っていた。

「配置も大きさもオーケーだそうです。担当の方が、京子さんが描いた乗り物や花のイラスト、どれも子供が喜びそうで可愛いっと喜んでいましたよ」

「……あんたねー、間違った表現が態度に出ていたわよ。内容を把握するまで考えちゃうじゃない」

 このヒトデのペンに出会ってから……いえ、ヒトデのペンを使用して描いたイラストは、先方の期待に応える内容を描き上げていた。
 滑るように描き上げるイラストは、時には頭に浮かぶ線を忠実に。

 時には自ら動くように線を描き、想像以上に良い作品を仕上げていた。 
 それはまるで描くことの楽しさを、再確認をさせてくれているようだった。

 守君は、注意する私の言葉など気にせず、カバンから書類を取り出すと、説明しなが手渡した。

「それで、今度の依頼なんですが、かなりの量になるのですが」

 依頼内容に目を通すと、そこには料理のレシピ本に使用する、食材や工程をイラストで再現してほしいと言う内容だった。

「うわーこんなに。これ完成させるのに結構時間かかるわよ」

 そんな言葉を話しながらも、依頼者の要望に心が躍っていた。
 目的は子供達が手に取り、料理を作ってみたいと思ってもらう内容だった。
 写真をだけを乗せたかしこまったものより、イラストを取り入れ、子供たちが喜びながら料理を作る。なんて素敵なことだろう。

 私はその文面が気に入り、参加したいっと思う気持ちが膨れ上がっていた。