「しずくさん……どうしたの?」

「それって、もしかして」

 手で口をおおうと、声を押し殺すようにしている。私は先ほどと違う仕草に驚いていた。
 瞳からはポロポロっと涙がこぼれていたが、表情は喜びの感情のようにも映っていた。

「すみません驚かせて。いえ、違うんです。あれ、でも何で涙がこぼれてるのだろう」

 涙を手の甲で無雑作に拭くと、呆れるように大きなため息をついた。

「やっぱり霞さんは勇気をくれますね」

 何かを考えると、力がみなぎり真剣な表情に変わっていた。
 そんな彼女からの言葉を、息を呑むように待っていた。

「その手紙にどんな内容が書かれているかわかりませんが、姉は親の仕事の都合では無く、病気の治療でドイツに行きます」

 突然出た内容に、表情を変えることも、言葉を出すことも出来ないでいた。

「ただ、このペンのことを話したら。霞さんの軌跡を話したら、姉はまた勇気をもらい絶対戻ってくると思います。そしたらまた、お話してあげて下さい」

 お辞儀をし振り向くと、しずくさんは走るようにその場を離れて行った。
 私はそんな彼女に声がかけられないまま、ただ見送り、居なくなった後の小道を見つめていた。

 もらった手紙には、病気の説明などは無く、私と過ごした時間が楽しかったと書かれてある。
 ほんの些細なことが、喜びの言葉で埋め尽くされていた。

 しずくさんが話す病気の茜と違い、手紙の中にはいつもの明るい茜がいた。
 手紙を読み返しながらも、いたずらや、別人ではないかと疑いながら、辛くなる心当たりがありることを、思い出していた。