「ありがとうございます。でも大丈夫です」

「そんなこと言わずに、駅まで送るわ」

 彼女の背中に、そっと手をそえると、爽やかな笑顔で答えてくれている。
 緊張の紐が緩んだのか、自然な会話がこぼれていた。

「でも、霞さんもペンタスの話をしているってことは、若者の間だけで流行っているわけでは、ないようですね」

「うん? うーーーん」

 無邪気な子供の発言は、ある意味凶器だ。
 その言葉を聞き微妙な意味が込められていると思うと、眉をゆがめ作り笑顔で答えていた。

「私に教えてくれたのは、その願いが叶った。わ、か、い。友達から。しずくさんも、お友達から?」

「私は姉からです。姉は……出かけ先で知り合った、年配の男性から聞いたと話していました」

「へっー以外に茜の交流関係は、年齢層が広いわね」

「なんでも、二十年近く前にペンタスと約束をした少女がいたそうで、その子の願いを叶えてからじゃないと、ダメみたいですよ」

 そんな会話中、同じような境遇である自分を重ね、笑っていまっていた。

「やだーその子。独り占めしないで、早く願い事して欲しいわ」

「流石に二十年も前ですから。京子さんのお友達も叶ったんですよね」

「うん、そうだけど」

「京子さんは、願い事をしたのですか?」

「したと言うか、手にしたペンタスがなかなか咲かなかったから、咲いたところを観てみたいと、お願いしちゃって」

「ふふっ、変わったお願いですね」

「でもお願いした次の日、私の不注意で無くしてしまったから願い事は叶わなかったわ」

「そうですか、残念ですね」

「でも代わりにこのヒトデのペンが突然あらわれてくれたね、ペンタスの代わりに、見てって言葉を描けるように」 

 話の途中で彼女は立ち止まり、考えるように視線を変えている。
 やっぱりっと、理解するように何かに気付くと、崩れるように顔を伏せていた。