「そうだ、不思議と言えばこのペンだって凄いのよ。ペンタスに負けないぐらい不思議なんだから」

 言葉を聞くなり、身体を硬直させるように驚き、気にしたように言葉をかけた。

「そのペンも……ですか?」

「目に付くとこに置いてあったのに、突然現れたように誰も存在を知らなかったのよ、不思議でしょ」

 彼女は目を丸くして、話を聞いている。

「はい、不思議です」

「それだけじゃ無いのよ、とっても書きやくて、私の汚い字が多少は見られるようになったんだから」

 期待した内容と違うことに、ガッカリと安心するような表情で下を向き、微笑みながら軽く顔を振ってくれた。

「きっと勉強の神様がこのペンで練習しなさいって言っているのよ、あれ、でも何だか生意気だわ」

 さらに笑顔になり顔を向けると、子供らしい表情を見せていた。

「まあ、そんなふうに前向きな気持ちになれれば、信じていてもいいんじゃないペンタスのことも」

「前向きな気持ちですか?」

「そう、前向きな気持ち」

 小さな深呼吸をすると、諦めたように答えていた。

「本当。姉の言うように、霞さんって不思議ですね」

 先ほどまでの緊張した彼女の振る舞いは、ごく自然に子供らしさを取り戻していた。私達はこの日初めて、お互いを見詰め合うことが出来たのかもしれない。

「じゃあ、そろそろ帰ろうか」

 私はヒトデのペンをカバンにしまうと、彼女を駅まで送ろうと歩き出す。
 彼女はそのことに気付き、遠慮するように答えている。