「印もそうですが、変わった形ですね」

「そうなの、少し大柄で見た目が不格好にもみえるでしょう。でも初めて見た時から気にいっていたの、職場の資材置き場から出て来たから、多分昔の物だと思うのだけれど」

 説明を聞きながらも、親しみを持つように彼女はペンを見つづけている。
 自分のお気に入りを、他人に褒められるのは、悪くない。私はこのペンと出会った時の喜びを、説明しようと思っていた。

「しずくさんも知っているかしら? ペンタスって花」

「えっ? はい」

 再び彼女の微笑みが消えると、そっとペンを差し出し、人ごとのようにつぶやいた。

「魔法のお花だと言われていますね、何でそんな作り話をみんな信じるのでしょうか? 願い事なんか、叶う訳もないのに」

 不器用なその言葉とそらす表情から、無理に信じないようにしているように思えた。
 彼女も心のどこかでは、信じてみたいと期待しているのではないだろうか?
 受け取りながらそんなことを思うと、彼女の心に有る小さな希望と言う名の蕾を、咲かせてあげたい気持ちになっていた。

「ふふっ、そんなことないわよーっ……不思議だけど!」

 彼女は目を閉じて顔をそらしたままだったが、その言葉に続く発言に意識していることが、わかるようだった。
 ペンタスと言う現代のおとぎ話は、いつの間にか私の中で当たり前のようになっている。  
 戸惑うことも無い私は、ペンタスの話を語っていた。

「私の友達も願い事が叶ったのよ。最初は信じていなかったみたいだけど、でもお願いした後、直ぐに切っ掛けみたいのが出来て問題が解決したのよ。凄いでしょ」

 明るく話すその言葉に、彼女は少し残念そうな表情で答えていた。

「でも、それはその、偶然かも、しれないじゃないですか」

「うーんそうね、しずくさんの言う通り偶然かもしれない。叶った本人もそう言っていたし、でもこの世の中には不思議なことも沢山あるのよ、茜と友達になれたのも有る意味ペンタスが関わっていたし、あっ、でもまだお姉さんには内緒ね」

 彼女は沈黙しながらも、話の途中で静かに頷いてくれた。