茜との約束の日、その日は生憎の曇り空だった。
 約束のは十七時三十分。秋の夕日は雲で遮断され、辺りはセピア色のような色彩を見せていた。
 最後に会う日なのに、雨が降らなければいいけど。

 寒さを感じ少し肩を縮めながら、小さな紙袋を優しく抱えていた。
 いつも茜が現われる方角を見ていると、数メートル離れた曲がり角から一人の少女が現われた。
 茜と同じクリーム色の制服を着ているが、直ぐに違う人物であることがわかる。

 心の中で、小さな不安が芽生えていた。
 足早に側まで寄ると、頭を下げ言葉をかけてきた。

「霞京子さんですか?」

 急ぐように話す彼女。
 小柄ながらも健康的な体型ではあるが、茜の面影が見え隠れする。

「はい。貴方は茜の妹さん……かしら?」

 一瞬目を泳がすと、息を呑むようにためらった。再び目に力が入ると、小さな声で答えていた。

「……妹のしずくです。すみません。今日は姉がこられなくなってしまい、私が代わりに来ました。いつも友達のように接していただき、ありがとうございます」

「そんな、お礼を言われるようなことしていないのに」

 省略された理由と淡々とした話しかたに、不安な気持ちは強まってしまう。
 彼女は視線を向けることなく、学生カバンから手紙と思われる封筒を、取り出していた。

「これは、姉から渡すように頼まれたので」

「そうなの……準備とかで忙しいのかな?」

 封筒を受け取りながらただ呆然と、そんな言葉を呟いていた。