少し私らしくない悩む態度をとったのだろう。
 茜は真剣な表情に変わり、心情を探るかのように問いかけた。

「他の叶えたいことでも、あるのですか?」

「うーん。そう言う訳でもないけど。でも蘭を、会社の子をね、デザイナーにしてあげたい気持ちもあるかな?」

 私から重大な悩みが聞かされると思ったのだろうか、茜は安心し、ため息をつくように答えた。

「それだったら、京子さんが教えてあげればいいじゃないですか」

「だっ、だめだよ私なんかじゃ」

 慌て出た言葉と同時に、茜の優しいたたずまいが目に映ると、新たな願いが頭の中で強まっていった。
 私は、青黒く染まる夜空を見上げ話した。

「それともう一つ、茜と再び会いたいかな。今のこの状況を笑って話せる。そうだその時はこの場所なんて良いんじゃない」

 笑顔で語ったつもりだが、自然に涙が溢れてしまう。
 茜にそんな泣き顔が見られないよう、顔は空を見上げたまま、誤魔化していた。
 茜も夜空を見上げ、参加している。

「私も京子さんと会いたい。帰国して、またこうやって会いたいです」
 
 視界に入った茜は、笑顔を取り戻している。
 その笑顔を見て、今更ながらも自分自身への疑問が言葉として伝えられそうだった。

「私ね、初めて会話した時のこと思いだしたの、茜にお花が好きかと聞かれた時のこと覚えている?」

 茜は数ヶ月前の初めて会話した内容なのに、迷うことなく頷いた。

「あの時は、うんうん、今もはっきりしないけど、同じような存在になりたいのだと思う。皆を幸せに笑顔にするそんな存在に」

 滑るように出た気持ちに、自分で語りながらも噛み締めていた。

「なれますよ、京子さんなら人を幸福にする花のように」

「そうかなー。みんなが喜ぶ作品も出来るかなー」

「大丈夫ですよ。だって清らかな心で、接してくれているじゃないですか」

 それから私達は別れを惜しむように、いつもより長く話を続けていた。
 旅経つ前にもう一度会おうと、初めて待ち合わせの時刻を決め、私達はその日の別れを告げた。