その店は以前カサブランカを購入した花屋だった。
 ガラス窓に映る自分の容姿に気付くと、戸惑ってしまう。
 大人なのに、若者の間で流行っているペンタゴンを買うのが、恥ずかしく感じていた。

 それはまるで、思春期にトイレットペーパーの買い物帰りに、好きな男の子に目撃されるぐらい恥ずかしく感じるほどだった。
 カバンから顔半分も隠れる大きなサングラスを取り出しかけると、卑屈な態度を誤魔化しながら店内に入って行った。
 これも違う。小さい花って聞いたけど、どんな形か聞いてくればよかった。

 一通り見渡したが、一緒に添えられている名札には、ペンタゴンの名前は無かった。
 店員や他のお客さんは、キョロキョロと探し回る私に注目をしている。
 その視線に行動を遮られると、欲しくも無い花を、慌てて指していた。

「すみません、このバラ三本包んで下さる」

「いらっしゃいませ。バラですね」

 店員が準備をする間、素早く他の花を確認したが、お目当てのペンタゴンの名前は見当たらない。

 うーん、どうしよう聞きづらいなー。

 他のお客さんも、目当ての花を持ち並びはじめると、視線が冷たいように感じてしまう。
 焦った私は、作り話で切り抜けようと考えた。

「あっ、そうそう、妹に頼まれていたんだ。すみませんペンタゴンと言う名の花、有ります。願い事を叶えるそうなんですけど、いつまで立ってもそんな言葉信じちゃって、子供でまいちゃうわねー。私じゃないのよ」

 店員に声をかけると、バラを包装する作業がゆっくりになりながら、不思議そうな顔で答えた。

「ペンタゴン? あっーペンタスですね。今は時期的に無いんですよー」

 軽快に受け答えする店員は、いそいそと包装作業を再開させている。
 その行為を見ながら、疑問を持っていた。 

 あれ? 何安心して作業進めているのかしら? 他に言うことあるでしょう。

 気の利かない態度にいら立ちを隠しながらも、店員に質問をしていた。

「あのー、お取り寄せとか出来ないのですか?」

「いやー内ではやってないんですよー」

「じゃあ、いつ頃入荷します?」

「さあー、今年はもう入荷しないと思いますよ」

 本来の目的であるペンタゴンが手に入らないことがわかると、目の前で包装されていく、バラを購入する気持ちが薄れていた。

 どうしよう。特に欲しいわけでもないのに購入しちゃった。

 家に飾ってもしょうがないし、他に使い道と行ったら、口に加えてフラメンコ踊るしかないじゃない。会社に持っていけば、ちょうど三人分だ、なんて言っている場合ではないし。

 以前のカサブランカのことを考えると、無理に購入してはいけないと、頭の中の天使が止めていた。
 店員がこちらに視線を向けていないことを確認すると、私は後ずさりしながら、静かに別の店に足を向けていた。