「ごめんごめん。失礼だったは反省する。参考までに聞かせて」

 態度の変わった私の言葉に、困惑と緊張の入り混じったかのような表情で見つめている。
 私は焦りの中、自分でも訳の分からない、言葉をかけていた。

「本当に教えて、代わりにどこかで聞いた白髪にするおばさん妖怪の話、教えてあげるから」

 蘭は視線を背け、困惑だけの表情を残し、話し始めた。

「京子さん。ペンタスって名前の花、知っていますか?」

「えっ、ペン……?」

 あれ、またその名前だ。 

 蘭は目を閉じると、頭の中でその花を思い浮かべているのだろうか? 大事そうにゆっくり話し始めた。

 蘭の話すその花は、お互いが身を寄せ合いながら咲く、とても小さなお花のようだ。
 鉢植えの二つ、ペンタスを揃えることで、願いに応えてくれるという内容だった。

「色々と説があるそうなんですが、私が聞いたのは、夕焼けの空に出た星を真ん中に、左右にペンタスを。願い事は言葉に出さず、心で一つだけ……つぶやく……のですが。あのー、違いますよ。ペンタゴンでは無く、ペンタスです」

 瞳を閉じていると思われた蘭だったが、その内容をメモした私の誤字に気付き、指差しながら訂正をしていた。

「やっ、やだー、気付いていたの。一生懸命話すから、ちゃんと聞かないと失礼じゃない。ねー」

 私は急いでメモを隠すと、何事もなかったかのように、話題を変えていた。

「白髪にするおばさん妖怪の話、聞きたい? 興味あるでしょ」

「いえ、無いです」

 切り捨てるような蘭の発言に、安心をした。

「そう、それは良かった」

 私は立ち上がると、蘭の頭に軽く手を乗せ、なぜるようなしぐさをして感謝の言葉をかけていた。

「ありがとう。もうちょっと頑張って駄目だったら、そのーペンタゴンにお願いしようかしら」

 何か言いたげな蘭を横目に、その場から離れ窓際に向かっていた。

 あっーやっぱり蘭もその辺の少女と変わらないわね、良かったわ。

 楽しそうに話す仕草を見て、嬉しく感じてしまう。
 窓際に置かれた植物と目が合うと、私は同意を求めるように話しかけていた。

「そんな不思議な花。存在するのかしらねっ」

 代り映えの無い植物は、沈黙したまま私を見つめているようだった。

 貴方も、ある意味不思議な存在の植物よね、茜にも合わせてくれたし。

 見つめる植物は、私に何かを訴えかけているようで気になってしまう。

「願いを叶える花か……」

 私はその日、帰宅途中に有る花屋を覗き込んでいた。