「下の空き地、雑草が凄くて。……あのー何ですか、そのバミューダなんたらって」

 どうやら外国の地理には、あまり得意では無いようだ。
 この日、厄日であると思うと、今日一日おとなしく過ごそうと誓っていた。

「うーん、何でもない。私ヨーロッパに居たから、とっさに外国語が出ちゃうみたい。気にしないで。コープッを使うから」

 衛生的なこともあり、給湯室に置かれていた、守君の湯飲みで水をあげることにした。

「ほら、美味しいですよー、すし屋の湯飲みですよー、ドゥ、ユーノーミー」

 言葉をかけながら、円を描くように水を与えると、乾いた土が水を浸透させ、かすかながらパッチパッチっと音を発している。
 まるで植物自体が水を飲んでいるように感じさせた。
 
 その日の蘭はというと、いつもと違い表情が優しかった。
 今までさとし君のことが気になっていたのだろう。
 先生も蘭を見つめ喜んでいる。

「さっきなんか、鼻歌歌ってたのよ」っと、しみじみ話すほどだった。 

 それに比べ、自分のことを考えると、時折気持ちが沈んでしまう。
 表情に出ていたのだろうか? 蘭はタイミングを見計らって、そんな私に言葉をかけてきた。

「あのー京子さん、正さんのことで悩んでいるんですよね」

「うん、まあ、まあね……それも有るは、でもほら大丈夫」

 心配してくれる蘭に感謝をしながら、元気であることを表現するように、ガッツポーズを見せてみたが、何か言いたげに立ち止まっている。
 恥ずかしそうに顔を赤らめると、意を決したかのように話し始めた。

「京子さん、願いを叶えてくれるお花。知っていますか」

「えっ願いを叶えるお鼻?」

 意外な言葉に少し驚いていた。

「うーん、知らないかな、どこかの動物園の像かなにかに触るとか?」

「いえ、そっちの鼻では無く、植物のお花にお願いすると叶うんですよ」

 大人っぽく装っている蘭の口から、似つかわしくない夢の有る発言に、思わず笑ってしまっていた。

「フフッ、お花に?」

 昔からある夢話だと思うと、デリカシーのない言葉で答えていた。

「やだー、子供じゃあるまいし、私はもうかなり大人だよ、それに」

 言葉を発しながらも、頭の中に残る小さな記憶を浮かびあがらせていた。

 あれ、でも何処かで聞いたことがあるなー。

 相手にされてないと、残念そうにも映る蘭の表情が視界に入ると、真面目に友達と向き合っていない自分に、弁解するように訂正をしていた。