母と二人暮しのオンボロなアパートに戻ると、土門はきつく締められたネクタイを緩めて壁のカレンダーを見つめた。


もうすぐ五月、ゴールデンウィーク。

巷は行楽地へと一斉に動き始めるが、自分は行くところなどない。


部屋の電気をつけると、老朽化したテーブルには母親が用意していった晩御飯がおいてあった。


二人の息子を育てた母は、夜の仕事に出ていた。

もう土門は就職し、大学に行く兄も奨学金で通っているため、家計はかなり楽になっていたが、母は働き続けた。


なぜそんなに頑張るんだ?

土門は母親にそう尋ねたことがある。


しかし母親は、しわくちゃの顔をさらに縮めながら、にこりと笑うだけであった。