「……まじで、やばい」
「柊くん?」
「苦しい」
「えっ、大丈夫……?」
「大丈夫じゃないかも。俺も泣きそう」
小さくくぐもった声を出した柊くんは、私の肩元からゆっくりと顔を離した。熱が籠った瞳にじっと見下ろされる。
「抱きしめても、いい…?」
少し掠れた声と切なく揺れる瞳に胸が苦しくなった。
「……うん」
上目がちに頷く。柊くんとの距離が縮まってすぐ、ぎゅっと身体が包まれた。ふわりと爽やかな香りが漂う。
両手を柊くんの背中へと回して力を込めると、更に私を抱きしめる柊くんの力が強まった。
私と同じくらいの速さで動く柊くんの心臓の音が、トクトク、トクトク、と聞こえる。こんなに胸を高鳴らせているのは私だけじゃないんだと分かって、嬉しくて頬が緩まる。
「柊くん、……好き」
「俺も好き」
好きな人へ好きと伝えられること、好きな人と両想いになれることは、想像していた何倍も、何十倍も、幸せなことだった。
語彙力を失ってしまうほど、"幸せ" という言葉しか頭に浮かんでこない。頭だけじゃなく、心も "幸せ" でいっぱいになる。
「幸せ」
キャパオーバーを起こした "幸せ" が、ついに口からも溢れ出してしまった。
「うん、俺も、」
幸せ、と口にした柊くんの身体をぎゅうっと抱きしめると、更にぎゅうっと抱きしめ返された。
涼しくて心地良い夕方の風を感じながら、私たちはしばらくの間、つよく、つよく、抱きしめ合っていた。


