視界が歪んで覚束ない中、真正面で息を呑む音だけがはっきりと聞こえた。
「だけど柊くんはライバル校の選手だから、好きになっちゃだめだって、何度も何度も自分に言い聞かせてた。自分の気持ちを閉じこめるのが、本当はすごく、苦しかった」
「……」
「だから、今、すごく嬉しい。柊くんに好きって伝えることができて、本当に嬉しいの」
両手で涙を拭いながら懸命に言葉を紡いでいると、正面から柊くんの手が伸びてきた。頬に右手が添えられて、そっと目元が撫でられる。
少しひんやりとする柊くんの指先は、熱くなっていた頬にはちょうど良い温度だった。
「泣かないで」
「っ……ぅ、ごめ、」
少しだけクリアになった視界の先に、優しく目尻を下げる柊くんの顔が見える。
「柊、くん」
「うん」
「私を、柊くんの彼女にしてください」
しっかりと柊くんの目を見て伝えることができた。
無言で見つめ合うこと数秒。柊くんの顔が視界から消え、こてん、と柊くんのおでこが私の右肩へと乗せられた。それと同時に、はー……と小さなため息が下から聞こえる。


