「彼氏彼女の縁はいつか切れることもあるけど、幼馴染の縁はそうそう切れることはねーからさ。ある意味俺は、ひなと一生関わり続ける権利を得られてるってわけ」
得意げに口元を持ち上げた黒津は「いいだろ」と笑う。
大会の時、黒津から向けられる視線に敵意が含まれているのは感じていた。それは俺がライバル校の選手だからというだけでなく、俺が羽森さんへ向ける視線に気付いて、牽制していたんだろう。
黒津は独占欲が強いやつだと勝手に思っていた。何が何でも羽森さんのことを手放さないだろうと。
黒津と真正面からぶつかることも覚悟はしていた。
だけど俺の予想とは反して、黒津は大人だった。
俺が黒津の立場だったら、同じことができるだろうか。羽森さんのことを手放すことができるのだろうか。考えるだけで、胸が痛くなる。
「正直、柊にならひなのことを取られてもしょうがねーなって思う」
「なんで」
「バスケつえーし、まあ、顔もかっこいいし」
「……黒津に褒められるとなんか気持ち悪い」
「うるせーよ!」
リアルに鳥肌が立ってきて両腕をこする。
「ひなのこと泣かせたらぶっ殺すから」
「泣かせない……ように努力する」
語尾を小さくする俺を見た黒津は、目力を強めると共に「まじでよろしくな!」と語気も強めた。
「ひなが待ってるから終わったら早く行ってやって」
「ああ」
「黒津」
「んー」
「ありがとう」
「ははっ。気持ちわるっ!」
俺の心からの感謝をケラケラと笑いながら振り払った黒津は、背を向けてそのまま歩き出す。ヒラヒラと右手を振りながら、その場を去っていった。


