視線が対峙する。強気なセリフに反して、黒津の口調は珍しく静かなものだった。
「ひなは俺の気持ちに微塵も気付いてねえ。周りの奴らにはバレバレなのに、当の本人には全く伝わらねーの。笑えんだろ」
自嘲するように黒津は口元を歪める。
「もし俺がずっと好きだったなんて言ったら、優しいひなのことだから、気付かなくてごめんって泣くだろうな。俺への罪悪感でいっぱいいっぱいになる」
「……」
「そんで、柊への気持ちを押し殺して、俺と付き合うことを選ぶ。仮にお前から告られたとしても、間違いなくひなは断るよ」
「……」
「ひなはそういう子なんだよ」
羽森さんのことを思い浮かべているのだろうか。痛々しい笑い方から一転、穏やかな笑みを浮かべた黒津に俺は何も返すことができない。
知り合って数年の俺には知り得ない、羽森さんと黒津の深い関係性が垣間見えて、心が黒く澱む。
「だけど俺はそんなことは望んでない」
「……」
「告って意識してもらおうってのも考えたことはあんだけどさ、ずっとひなの近くにいたから分かっちゃうんだよな。ひなが俺に恋愛感情を持つことは一生あり得ないって」
「……」
「ひなにとって俺は永遠に幼馴染なんだよ。家族みたいな存在なんだと。そんな風に言われたらさ、この関係を壊せねーじゃん」


