日々、アオハル


未だ立ちすくんでいる柊くんの元へと歩いて行く。肩にかけているトートバッグの持ち手をぎゅっと握りしめる。


2人の目の前までたどり着き、下へ向けていた顔をゆっくりと上げると、私を見下ろす柊くんの綺麗な瞳と視線が重なった。どくん、と心臓が動いた。


間近で柊くんを見るのはあまりにも久しぶりすぎて、柊くん耐性がゼロになってしまったのかもしれない。


黒のユニフォームにオレンジのタオルを肩から下げている姿が本当にかっこよくて、まだ心臓はバクバクとうるさく鳴っている。


「……」

「……」


見つめ合ったままの状態が数十秒ほど続く。


「おーい、世那も羽森さんも戻ってきて」


この状況に痺れを切らした大河原くんが、薄い笑いと共に声を上げた。はっ、としていると大河原くんはいつもの優しい笑みを私へと向けてくれた。


「羽森さん、もしかして応援しに来てくれたの?」

「あ、うん。白石東と、柊くんの応援をしたくて」


そう言いながら、恐る恐る柊くんを横目でチラ見した。更に目を丸めていた柊くんは、私の言葉に驚いているように見える。


「まじかー!羽森さんありがとう」

「ううん。2人共頑張ってね。上から応援してます!」


ありきたりな言葉しか出てこない自分に少しがっかりしながらも、試合前に直接伝えられただけでも十分だと満足する。それにこれ以上、試合前の貴重な時間を奪ってしまうわけにはいかない。



「世那、5分な」

「は?」

「今から5分だけ自由時間。5分経ったらコートに降りてこいよ」


大河原くんが柊くんの背中をポンと叩く。


「羽森さん。世那の気合いもうちょい入れてやって」


にこり、ではなく、にやりと口元を緩ませた大河原くんは私の返事を聞く間もなく、足早にこの場を去って行った。