「元々誰か誘おうとは思ってたから、ひなが行くってなら一緒に行くけど。どうする?」
「んー……」
「もういいんじゃねーの」
「え?」
「ひなは今日から三田第一のマネじゃないんだから」
私はもう、マネージャーじゃない。
光希の言葉に、少しだけ寂しさを覚える。
柊くんと会うのは、お互いの部活が落ち着いてからと自分の中で決めていた。柊くんも部活を引退したら、もう一度会えないか、私から連絡してみようと思っていた。
「ひなにはいろいろ我慢させたよな。悪かったと思ってる」
「我慢なんて、それはちがうよ。部活に集中したいと思ったのは、何よりも私の意志だったから。あの選択をして本当によかったって、心の底から思ってる」
はっきりとした口調でそう告げると、目の前の光希の表情がほんのり和らいだ。
「あーあ、柊に渡すのやだな」
「え?」
「嫁入り前の娘を持つ親父になった気分」
突然の話の方向転換に「急にどうしたの」と笑うと、座席に預けていた背中を起こした光希は膝の上で両手を組み、前屈みになって私を見上げた。
「ひなはもう、好きなようにしていいんだよ」
「……うん」
「これまで一生懸命やってきたんだから、誰も文句は言わねーよ」
「……うん」
「で、どうすんの」
光希の言葉に背中を大きく押された。
「行きたい、」
すうっと息を吐くように本音がこぼれる。
「……私も行きたい。柊くんのこと、応援したい」
「ん。じゃあ一緒に行くか」
満足そうに口元を緩めた光希は再び座席に背中を預けると、真っ暗に染まった窓の外へと顔を向け直した。


