更に「えっ」と声を上げた私に、柊くんは「……いや、ごめん」と小さく呟いた。
さっきの言葉は口に出すはずのものじゃなかったのかもしれない。罰が悪そうな表情を浮かべた柊くんは、色付く頬を隠すようにマフラーに顔を埋めた。
目線だけをこちらに向ける柊くんと視線が重なる。どくっと心臓が大きく跳ねる。
「やばいってのは、悪い意味じゃなくて」
「……うん」
「羽森さんの雰囲気がいつもと違うから、……なんか、緊張してる。ごめん」
柊くんの視線がゆらゆらと下に落ちていく。もしかして照れてる……?と勘違いしそうになるその姿に、きゅうっと胸が締め付けられた。
「私も、緊張してるよ」
「……」
「柊くんと話す時はいつも緊張しちゃうんだけど、今日は特に。柊くんの私服姿が新鮮で、緊張してる」
「……」
「だからお互いさまだよ」
同じように白状して、視線をゆらゆら下降させた。
いつもより少し騒がしい車内。私と柊くんの間にだけ静かな空気が流れる。どくどくと大きく脈を打つ心臓の音が聞こえてしまわないか心配になってしまう。
「今日は会ってくれてありがとう」
少しの沈黙の後、顔半分を出した柊くんは優しい表情を向けてくれた。
「ううん。こちらこそ、誘ってくれてありがとう」
柊くんと一緒に過ごせるこの時間が心の底から幸せだと思う。それと同時に、あと数時間後には幸せな時間が終わってしまうという寂しさが、早くも心に押し寄せてきた。


