「光希……」
「ひなは悪くない」
「……」
「ひなが悪くないってことは頭ではちゃんと分かってんだよ」
「……」
「マネージャーだから他校のメンバーを好きになっちゃいけないなんて決まりはねーし、それは悪いことでもなんでもない。謝ってほしくもない。仮にひなと柊が付き合ったとしても、それを責めたり邪魔したりするつもりはねえ」
「……」
「ってことは頭では分かってんだけどさ、気持ちが追いつかねーんだよな」
目を伏せながら弱々しく笑ったその表情は、光希と出会ってから初めて見るものだった。鈍い痛みが心を侵食していく。
「ちょっと頭冷やしてくるわ」
「えっ、光希、」
「ちゃんと話してくれてありがとう」
背を向ける光希をこれ以上追いかけることもできず。扉が閉まってすぐ、心の痛みに耐えきれず、ハチマキを握ったままその場に蹲った。
「なあ、お前ら喧嘩でもした?」
「……」
「……」
「めずらしー。光希がひなに怒るなんて初めてじゃね?」
「いや、あれはどうみても拗ねてんだろ」
「あ〜〜まじだ。拗ねてる時の顔だ」
お兄ちゃん2人は、私たちの放つ微妙な空気をすぐに察知したよう。楽しそうな声が助手席から聞こえてくる。
「けど、ひなにそんな顔させるのは許せないな」
「ひな?光希に酷いこと言われたりはしてねえ?」
「えっ、ううん。言われてない。大丈夫」
「光希〜、ひなのこと泣かせたら高速の途中でお前のこと降ろすかんな〜」
お兄ちゃんたちの過保護は今日も今日とて絶好調。
チラっと隣を横目で見ると、窓に頬杖をつく光希は、むすっとした表情で遠くの方へと目を向けていた。


