ラブソード

 お城の大広間に案内されると、奥のさらに奥に位置する場所に、立派な着物を着たお殿様が座っています。
 豪華で何枚もの着物をまとい、威厳があることを見せるためか、表情を変えず、すましていました。
 そばには、憎ったらしい表情をした、カラスもいます。
 
 ノリオくんたちは、入り口付近のお殿様から遠く離れたとこに座りました。
 
 お付きの者がノリオくんたちに小声で話します。

「無礼の無いよう、挨拶を」

「あなた様が、お殿様ですか?」

「いかにも。よは殿様じゃ。しかし少年よ、よは殿様は殿様でもすごく偉いお殿様じゃ」

「そうですか、あなたがすごく偉いお殿様ですか」

 するとお殿様は、重い着物を引きずり、息を切らしながら部屋の奥から近づいてきました。
 ノリオくんの前まで来ると、板ガムを差し出します。
 ノリオくんは「ありがとう」とお礼を言いながら受け取ると、お殿様はいそいそと戻っていきました。
 
 それを見ていた妖怪たちも、同じことを話します。

「あなた様がすごく偉い、お殿様でありんすか」
「偉い。お殿様」

 お殿様は再び笑顔になると、ふらふらになりながら奥から近づいてきて、板ガムをそれぞれに配りました。お地蔵様に化けた狸に気づくと、お饅頭をあげ手を合わしています。
 
 妖怪たちも「ありがとう」とお礼を言い受け取ります。
 息切れをしながら、戻ったお殿様は、倒れるように座り込み話しました。

「ところで、そなたたちは、相思相愛にすることが出来る妖術を持っているのか」
 
 ノリオくんは正直に、話しました。

「本当はこのラブソードで町の人を、世界を幸せにしたかったのですが、効力がなくなったみたいです」

 のっぺらぼうも、自分のサイリウムを見せ、取り間違っていないと説明をしているようです。

「うむ、それは困ったのー でも、そのラブソードを、よのために今一度使ってくれないか?」 

 お殿様の話では、最近お嫁さんに来たお姫様の元気が無く、結婚を拒んでいるのではないかという内容でした。

「お礼ならたんとするぞ。なんなら、そなたを官僚にしても良いぞ」  

 お殿様が、家来に合図をすると、目の前に運ばれたものは小判に綺麗な反物。米俵にお重にぎっしり詰められた、あんこ餅でした。

「子供じゃからな、こんなのもあるぞ」

 お殿様はこれ見よがしに、竹馬に乗っています。
 妖怪たちはそばまで寄って行き、物欲しそうに見ていました。
 ノリオくんは目的に近づきましたが、表情を曇らせます。
 
 言われるまま案内された部屋には、小柄でとても綺麗なお姫様が座っていました。