神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

ベリクリーデの居場所を聞き出し、俺は急いでその現場に向かった。

部下が教えてくれた場所に、奴はいた。

聖魔騎士団魔導部隊の隊舎入口に立って。

「はい、どうぞー。…はい、こっちもどうぞー」

と、駅前のティッシュ配りさながら、通りすがる人全てに配っていた。

何をか?

…お金を、だ。

あろうことか奴は、封筒から一万円札を剥き身で取り出し。

チラシでも配るかのような気軽さで、その一万円札を配布しているのだ。

…マジで何やってんの?あいつ。

「はい、これあげるー」

「え、えぇっ…!?」

ベリクリーデにお札を差し出された隊員達は、揃って驚愕していた。

当たり前だ。

一万円札を配るなんて、前代未聞。

「ど、どうしたんですかベリクリーデ隊長?」

「お金あげる」

「な、何で…?」

ごもっともな疑問。

「どーぞ。遠慮なくもらって」

「そ、そんな。もらえませんよ…!」

「??気にしなくても良いよ?」

気にするわ。誰だって。

通りすがりに人にお金を配るなんて、新手の不審者だ。

良いか、そういうのは絶対ヤバい案件だからな。下手に受け取って、関わっちゃ駄目だぞ。

どんな犯罪に巻き込まれるか、分かったものじゃない。

…が。

ベリクリーデの場合は、多分だけど…何も考えてない。

付き合いが長いからこそ分かる。

とにもかくにも、ベリクリーデを止めねば。

「こらっ!ベリクリーデ!」

「あ、ジュリスだー」

こちらに気づいて、声を弾ませるベリクリーデ。

「こんなところで…。お前は一体何をやってるんだ?」

「お金配ってるの」

…マジで?

「はい、ジュリスにもあげるー」

と言って、ベリクリーデは俺にもお札を差し出した。

俺はそれをおもむろに受け取り、じっと眺めた。

…これ、本物だぞ。

マジで、本物のお札。

子供銀行とかじゃない。これ持ってスーパーに行ったら買い物が出来る。マジのお金。

…嘘だろ。なぁ。

「これ、何処から持ってきた?」

「ふぇ?」

「何処から持ってきた金なんだ?」

まずは、金の出処を尋ねる。

事が事なら、俺は責任を持って、責任を持って…ベリクリーデと一緒に交番に出頭するぞ。

…しかし。

「何処から、って…。私の今月のお給料だよ?」

…とのこと。

良かった。怪しいところから引っ張ってきた金じゃないんだな。

ベリクリーデ自身の給料を配って回ってるだけなら、別に問題は…。

…って、問題あるに決まってるだろ。何言ってんだ俺。