神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

柳の葉が、ゆらゆらと揺れる中。

えーん、えーん、という赤ん坊の泣き声が、かすかに聞こえてきた。

これも、ツキナの音魔法によるものだ。

しかし、魔法だと分かっていても、あまりにリアルな泣き声。

シルナなんて、ビビりまくって俺の腕にしがみついている。

既に会場が不穏な雰囲気に包まれているが、令月の『カブ太郎』はまだ始まったばかり。

「おじいさんとおばあさんは、カブ太郎を大事に大事に育てたんだ。そうして、カブ太郎はだんだん大きくなっていき…」

すると。

背景の柳の木が、スッ、と消え。

壇上に、古びた衣装を着たすぐりが、無言で現れた。

もしかして、あのすぐりがカブ太郎役?

すぐりは壇上に出てきたものの、無表情で、一言も台詞を発しなかった。

サイレント状態である。

相変わらず、ストーリー進行は令月が進めていく。

「ある日カブ太郎は、こう言い出したんだ。『鬼退治に行く』って」

…おっ。

桃太郎…いや、カブ太郎のストーリーの中核が見えてきたな。

「おじいさんとおばあさんは、必死に止めたんだ。

『やめなさい、そんな危険なこと』

『そうだ。鬼なんて放っておけば良いじゃないか』…って。

だけど、カブ太郎はこう言ったんだ。

『いいや、もう我慢出来ない。何としても、俺が鬼を倒すんだ』って」

どうやら、台詞も令月が言うんだな。

役者であるすぐりは、壇上の上で動くだけ。

「カブ太郎の決意は強く、おじいさんとおばあさんは止めることが出来なかったんだ。

諦めたおじいさんは、いざという時の為に使いなさい、と蔵に入っていた草刈り鎌を、

おばあさんは、何かの役に立つかもしれないから、と特製の『きび団子』を作って、カブ太郎に渡したんだって」

出た。きび団子。

桃太郎の世界では、超重要アイテムだが。

何だろう、どうも…。

令月は、きび団子、という言葉を、妙に含みのある言い方をした。

「『ありがとう、おじいさん。おばあさん』

カブ太郎はそう言って、右手に草刈り鎌を、左手にきび団子の包みを持って、鬼退治の旅に出掛けたんだ」

背景が、また変わる。

今度は、険しい山道みたいな景色。

どうやら旅の道中らしい。

風がざわざわいう音、動物の鳴き声など、相変わらずリアルな音が聞こえるせいで。

それほど大きくない舞台のはずなのに、妙に臨場感がある。

「旅の途中で、カブ太郎はとある動物と出会ったんだ」

おっ…。出た。

桃太郎と言えば、一緒に旅をする動物がいるよな。

えぇと、イヌ、サル、キジだっけ…。

しかし、舞台の上に現れたのは。

イヌでもサルでもキジでもない、異様な姿をした生き物。

イヌのように四足歩行で、サルのように顔が赤く、キジのように背中に翼が生えた、

猫の目をした、鋭い牙の動物。

誰あろう、不気味な生き物に『変化』したマシュリであった。