神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

「むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがおりましたとさ…」

うん。まぁここまでは普通。

しかし、台詞以外は普通ではなかった。

いつの間にか、令月の背後の風景が変わっていた。

柳だ。

柳の枝が、風もないのにゆらゆらと蠢いている。

それはまるで、手招きをしているかのようだった。

少し冷静に考えれば、すぐりが糸魔法で柳の枝を再現しているだけだと、気づいただろうに。

そこに、加えて「ざわざわ…そよそよ…」と風が葉を揺らす、不気味な音まで聞こえてくるではないか。

ちなみにこの音の発生源は、令月とすぐりの友達のツキナ・クロストレイである。

彼女は園芸も得意だが、音魔法がとても得意な生徒。

葉を揺らす音を魔法で再現するくらい、お手の物なのだ。

「ある日、おじいさんは山に芝刈りに…おばあさんは川に洗濯に行ったんだけど…」

…ここまでは、よくある桃太郎の冒頭。

いや、でもさっき、『カブ太郎』って言ってたよな?

何だよカブ太郎って…。

「おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から、どんぶらこ…どんぶらこ…と、白くて立派な…カブが流れてきたんだ」

…何でカブ?

多分、ここにいる全員がそう思ったに違いない。

「それはもう…まるで、イーニシュフェルト魔導学院の園芸部で育てたカブみたいに、大きくて立派な、美味しそうなカブが…」

おい。ドサクサに紛れて自分の部活の自慢やめろ。

「おばあさんは流れてきたカブを見て、身に覚えのないカブを拾うのはやめようと思って、無視しようとしたんだけど…」

現実的。

「それだと物語が進まないので、おばあさんはカブを拾うことにしたんだ」

英断。

「そして折角だから、カブの漬け物を作ろうと思ったんだ」

美味しそう。

「おばあさんはカブを家に持って帰って、包丁で半分に切ってみたんだ。すると、その中から出てきたのは…」

ごくり。

「大きくて、まるまる太った赤ん坊だったんだ」

…やっぱり、桃太郎のストーリーを参考としているようだな。

別に桃で良いじゃん…。…何でカブ?

小さい子は、あんまり…カブに親しみはないのでは?

しかし、物語はどんどん進んでいく。

「カブの中から赤ん坊が出てきちゃったから、カブを漬け物にしようとしたおばあさんは、随分がっかりしたんだけど…」

おい。だから急に現実的なのやめろって。

子供が出てきたことを喜べよ。

「それに、カブから生まれた赤ん坊なんて、怪しいから捨ててこようかとも思ったんだけど…」

やめろって。

「おじいさんとおばあさんは、その赤ん坊が、二人が若い頃授かって…でも、生まれてすぐに死んでしまった赤ん坊にそっくりだったから、その子を『カブ太郎』と名付けて、育てることにしました」

突然重い話をしやがる。

おじいさんとおばあさんに、そんな悲しい過去が。

良いか、全国のちびっ子達。これは令月とすぐりの作り話だから、本気にするなよ。