神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

翌日。

ほとんど時間がないままに、幼稚園演劇会の日を迎えた。

令月とすぐり、そしてマシュリとナジュは、揃って意気揚々と出掛けたが。

残された、俺とシルナは…。






「…うーん…。大丈夫かなー…」

「…」

今朝から、これでもう8回目。

本当に心配なのか、チョコレートを食べる手も止まっている。

今日のシルナは控えめだな。

いつもなら、既に板チョコ3枚は貪ってる頃だが。

今日は、まだ板チョコ1枚分のチョコしか食べてない。

控えめ(当社比)。

「羽久が私に…失礼なこと考えてる気がするし…」

「気の所為だ」

「令月君とすぐり君…。…大丈夫かな?」

シルナの心配事というのは、これである。

…演劇会のことだ。

実は、シルナだけじゃなくて俺も心配だ。

あいつら…ほとんど準備時間もなかったのに。

幼稚園で演劇会なんて…本当に大丈夫なんだろうか?

舞台が大失敗して、ブーイングを浴びせられる姿を想像し、思わずブルッと震えてしまった。

大抵のことは何でも、卒なくこなす令月とすぐりだが。

あいつら、生まれと育ちがアレだから。

一般人と常識が違うことが、よくあるんだよな…。

いかなる時でも胆が据わってるのは良いことなんだけどな。

何なら、シルナより百倍は頼もしいもん。

「あぁ…。羽久がまた私に失礼なことを考えてる気がする…」

「シルナはどうでも良いが、令月達のことは俺も心配だよ」

…そして、俺とシルナと同じように、不安そうな人物がもう一人。

「…ナジュ君、大丈夫かなぁ…」

と、心配するのは天音である。

そうか…お前もか、天音。

俺達、似た者同士だな。

「ナジュ君…自分の身を顧みないからな…。突然突拍子もないことするんだよな…」

「確かに…」

分かるよ、天音。

…しかし、肝っ玉の小さな男三人組に反して。

「ぐだぐだ言ってないで、暇なら仕事をしなさい」

「…イレース…」

イレースだけは、いつもとまったく変わりない様子で、てきぱきと仕事を片付けていた。

…俺達3人の度胸をまとめても、イレース一人のそれには敵わないだろうな。

ってくらい、めちゃくちゃしっかりしてる。

さながらイレースは、このイーニシュフェルト魔導学院の背骨だよ。

「イレースは心配じゃないのか」

「何がです」

「令月達のこと…」

昨日、イレースが会合から帰ってきた後、シュニィに頼まれた演劇会のことを話しても。

イレースはただ、「そうですか」と言っただけだった。

それ以上の追及も、質問も無し。

俺は一度で良いから、イレースが腰抜かして驚くところを見てみたいよ。

「明日世界が滅亡するらしいよ」と言われても、「そうですか」と言って仕事してそうだもんな。