神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

「珍しいな…。アトラスが風邪を引くとは」

ほら…あいつさ、脳筋じゃん?

人様の旦那さんを悪く言いたくはないけどさ。

あいつ、親馬鹿じゃん?

馬鹿は風邪引かないって言うじゃん?

「そうなんです…。でも、実は…先に風邪を引いたのは、子供達なんです」

「え?」

「レグルスが一番に熱を出して、すぐにアイナを別室に移したんですが、アイナも具合が悪くなって…」

あぁ…。

二人で遊んでる間に、伝染っちゃったんだろうな。

可哀想に。

「それ自体は、そう珍しいことではないんですが…」

「まぁ…ちっちゃい子は、よく熱を出すからな…」

「えぇ…。するとアトラスさんは、二人が熱を出したのを見て、何を思ったか…。『二人の風邪は、俺が貰い受ける!』とか言って…」

「…」

「一晩アイナとレグルスに挟まれて寝て、朝起きたら、見事に風邪が伝染ってたそうです」

「…そうか」

アトラス…。お前は良いお父さんだよ。

アホだけどな。

「…それで?アイナとレグルスは?治ったのか?」

「はい…。二人共、朝起きたらケロッとしてました…」

本当に、二人の風邪を引き受けたんだな。

…まぁちびっ子達が元気になって良かったよ。

アトラスも、きっと本望だったことだろう。

「シュニィ…お前、止めなかったのか?」

大抵、アトラスがアホなことをしてる時は、シュニィが止めるものだと思っていたが…。

ついに呆れて、もう止めもしなかったか?

しかし、そうではなかった。

「実は…私がそれを知ったのは今朝なんです。昨日は丸一日、出張で…」

「あぁ…。そういうことだったのか…」

全ては、シュニィがいない間に起きた出来事経ったんだな。

そりゃ止めようもない。

「今朝家に戻ったら、アトラスさんが真っ赤な顔をして鼻を垂らして、咳をして…。『ま、まだ耐えられる…。アイナとレグルスの苦しみに比べたらこんなもの…!』とか言いながら、ベッドの上で朦朧としてました…」

「…大変だったな、シュニィ…」

それを見た時のシュニィが、どんな思いだったか。

呆れれば良いのか、はたまた感心すれば良いのか。

「本人は大丈夫だ、って言ってるんですけど…。熱は高いし、酷いガラガラ声で…」

「…」

「とてもじゃないけど、明日の演劇会には参加出来そうになくて…」

…無理もない。

仮に、今日一日休んで、奇跡的に体調が回復したとしても。

「やめとけよ。治りかけが一番人に伝染りやすいって言うし…。万が一、幼稚園児に伝染したら大変だ」

「そうなんです…。私としても、アトラスさんが心配なので…。出来れば、付き添っていたいですし…」

…だろうな。

何だかんだ言いつつ、シュニィも、夫のアトラスのことが心配なのだ。

それに、風邪が治ったばかりの子供達のことも。

熱が引いたとはいえ、これからまたぶり返す可能性もある。

今は、仕事のことより、家族のことが心配なのだろう。

その気持ちはよく分かる。

…だからこそ、俺達に相談に来たのだろう。