神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

それから、二時間くらい経過した頃。

「ふー…」

一時仕事を中断して、椅子に座ったまま伸びをする。

現場任務は疲れるが、かと言ってずっと屋内仕事ばかりも、気が滅入るよなぁ。

ま、良いことだ。

俺達が暇ってことは、世間様が平和ってことだからな。

警察だの消防士だの医者だのは、人を助ける為の大切な仕事であるけれども、彼らは暇を持て余している方が良いんだよ。

「さてと…。ちょっと一息入れるかな」

紅茶でも淹れて、少し休憩しよう…。

…なんて、考えていたことが既にフラグだった。

ドタドタドタ、と廊下の向こうから誰かの走る足音が聞こえてきたかと思うと。

「ジュリス隊長っ…!大変です!」

…来ちゃった。

昨日と同じ部下が、俺の部屋に飛び込んできた。

いつものアレね。はいはい。

「で、何だ?今日はどうした?」

ベリクリーデの奴、今日は一体何をやらかした?

あいつは、毎日のように何かしら騒動を起こさないと気が済まないのか?

それは勝手だが、その度に毎回俺が巻き込まれる羽目になるのは御免だ。

昨日だって、結局、帰ってから鶏肉の下拵えをして。

外に七輪を出して、屋外焼き鳥屋をオープンすることになった。

まぁ、皆喜んでくれたから良かったけどさ。

ベリクリーデはそんな俺の横で、「いらっしゃいませー。ジュリスの焼き鳥屋さんですよー」とか言ってた。

お前は居酒屋のおばちゃんか。

今日こそは、大人しくしていて欲しかったのに…。

「そ、それが…お金、え?」

「お金?」

その時部下は、何かに蹴躓いた。

見下ろすとそこには、ベリクリーデが床に置いていった…ビーズの玩具セット。

しまった、と思ったが遅かった。

「あっ…」

「ちょ、待て。また何か誤解してるんじゃないだろうな?」

違うんだ。それはさっき、ベリクリーデが勝手に俺の部屋に持ってきて。

そして、そのまま部屋に置き去りにしていったんだよ。

ああ畜生、こんなことになるなら、床に放置なんかせずに片しておけば良かった…!

と、今更思っても後の祭り。

「だ…大丈夫です、ジュリス隊長」

「何が大丈夫なんだよ」

おい、こっち見ろよ。目が泳いでんぞ。

「人の趣味は人それぞれなので。たまには可愛いビーズで童心に帰ることも、」

「だからっ…!それは誤解なんだってっ…!」

ベリクリーデの。それはベリクリーデのなんだよ。

俺のじゃないんだ。断じて。

「あのな、この際だからちゃんと言っておくが、俺は、」

「それよりも、ジュリス隊長」

「それよりって何だよ?」

俺に幼児趣味があるという誤解を解く以上に大切なことが、今この世にあるのか?

「ベリクリーデ隊長が…」

「あぁ…そうだった」

ベリクリーデがまた何かやらかしたんだよな?そのことを報告しに来たんだっけ。

「あいつが何をやったって?」

「その…お金を、配ってるんです」

「…!?」

俺は、思わず開いた口が塞がらなかった。