神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

ーーーーー…こちらは、イーニシュフェルト魔導学院。



その日、シルナはいつにも増してご満悦であった。

「ふっふっふー。じゃーん!見てこれ。羽久」

おっさんの「じゃーん!」って、そこはかとないキモさがあるよな。

「羽久が私に失礼なことを考えてる気がする…!」

「はいはい。で、何だよ?」

俺がそう聞くと、シルナは待ってましたとばかりに。

「ほらっ!◯◯堂のチョコ!」

「…!」

お前、それ。

海外の人気高級店で販売されている、高級チョコである。

学院長とはいえ、万年火の車経営のイーニシュフェルト魔導学院の学院長では、おいそれと手が出ない高級品だ。

何故そんなチョコを、シルナが…。

「お前、まさかまた…学校の経費を無断で…」

「ち、違うよっ。常習犯みたいに言わないで!」

だって常習犯じゃないかよ。

お前、何回イレースに怒られたか覚えてないのか?

自分に都合の悪いことは、すぐに忘れる便利な脳みそをお持ちなのかもしれない。

「羽久が…また私に失礼なことを…」

「良いから。どうやってそれ、手に入れたんだよ?」

「大丈夫、大丈夫。心配しなくても」

全然大丈夫じゃねぇよ。

「このチョコね、私の御用達のお菓子屋さんが直輸入して、個数限定で販売してくれたんだ」

ほう。

シルナが個人で輸入した訳じゃないのか。

「でも、このチョコが店頭販売される日は平日で、私は買いにいけないでしょ?いっそ、授業はシルナトコジラミの分身に任せて、本体の私がこっそり学院を出て、買いに行こうかと思ったんだけど…」

どうやってトコジラミが授業を行うんだよ。ふざけんな。

「待てよ、って思ったんだよ。もしこのことがイレースちゃんにバレたら…」

「校門の前に、『学院長とパンダ立入禁止』の札が貼られてるかもな」

「私が学院長なのに!?」

仕方ないだろ。それだけのことをしたのが悪い。

イレースなら、絶対にやるぞ。

あいつはやると言ったら絶対やる。そういう奴だ。

「こうなったら万事休す。もう、形振り構っていられないでしょ?」

「お前には、チョコを諦めるという選択肢はないのか?」

「だから、このお菓子屋さんに連絡したの。『お願いだからシルナの分も取っておいて〜っ!』って」

「…」

想像出来る。

涙と鼻水を垂らしながら、土下座せんばかりにチョコをねだるシルナの姿が。

…これがイーニシュフェルト魔導学院学院長の姿か?

情けない中年親父以外の何物でもない。

「そうしたら、特別に取っておいてくれたんだ。良かった〜!やっぱり、持つべきものは仲良しのお菓子屋さんだね!」

と、ご満悦なシルナだが。

おっさんが顔面崩壊させながら、土下座してチョコをねだる姿を見て。

店員としても、「分かりました」と言わざるを得なかったのだろう。

…お菓子屋さんに大変申し訳ない。