神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

窓から見た景色は、そりゃもう、阿鼻叫喚だった。俺にとっては。

何匹もの野良猫達が、集まる集まる。近所の空き地に。

例の、心中事件があったというあの空き地に。

「…!?」

さっきからミシミシ言ってるのは、まさかこの音だったのか?

野良猫達が、アパートの天井の上を走り回って、空き地に向かう足音。

まさか…昨日までも、ずっと…?

「おま…!一体いつから?あの猫共、いつからあの空き地を根城にしてるんだよ…!?」

「根城って…。あの空き地は集会所だよ、猫の集会所。毎晩、この近所の猫が集まってるんだ」

毎晩…!?毎晩だと?

じゃあ、やっぱり…夜の足音は…。

嘘だろ?…俺、一体…これまで何に怯えてたんだ?

「雨が降ってたり、寒い時は集まらないけど」

…雨?

そういえば、俺達が引っ越してきた最初の夜。

あの日は、夜中の足音がしなかった。

それは何も、幽霊が俺達に遠慮してた訳じゃなく…。

単に、雨だったから猫集会が行われなかった、だけ?

「今夜はいっぱい、ねこちゃんが来てるんだね」

「うん。今日は特別だからね。月に一度の野良猫大集会だから。今回の会場は、そこの空き地なんだよ」

「そっかー」

何だよ。野良猫大集会って?

じゃあ、さっきから聞こえる、この激しい足音は全部。

近所から集まってきた野良猫達が、あの空き地に集まっているから…?

「何で…何で、あの空き地なんだ?他にも場所ならいくらでも…」

「え?だって…この近くのペットショップが穴場だから」

…ペットショップ?

そんなのあったっけ…と考えたが。

そうだ、あった。花屋の帰りに見たぞ。

個人経営の、ちっちゃいペットショップが。

「あそこの店主、凄く良い人なんだよね」

マシュリは、恍惚とした表情で教えてくれた。

「僕達みたいな野良猫が遊びに行ったら、期限切れの猫缶とか、売れ残りのキャットフードを分けてくれるんだ」

「…」

「この間なんて、サンプルの新作猫缶を食べさせてくれたって…。あそこの店主は聖人だね」

…安易な気持ちで野良猫の餌付けは駄目だぞ。俺との大切な約束だ。

つーか、野良猫共、あの場所が元々心中放火事件があった場所だって知ってるのか?

そんなこと、猫共には関係ないってか?

いるわいるわ、空き地に野良猫達が、わらわらと。

あ、あいつら…。完全に住処にしてやがる。

「あ…あの野良猫が、幽霊の正体…?」

「…?幽霊ってどういうこと?」

きょとん、とするマシュリ。

「それより君達、何でここにいるの?何やってるのこんなところで」

「…さぁ…。…俺達にも分かんねぇや…」

…何やってるんだろうな?俺達。マジで。

これまで、すげー馬鹿なことしてたような気がする…。