神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

花屋で、花を買った後。

俺はもう一度図書館に行って、先程聞いた事実を確認した。

そうしたら、本当だった。

本当に、この地域では10年前に土地整理が行われ、住所が少しずつ変わったらしく。

昨日新聞記事で見つけた、心中事件の起きた場所。

あれは昔の住所であり、今は番地が違っていた。

そしてその住所は、今、空地になっている場所なのだ。

アパートの部屋から見えてただろ。あの空き地だ。

あそこが、心中事件の跡地。

つまり、今俺達が住んでいるアパートの住所とは、違う場所なのだ。

俺はてっきり、事件の跡地にアパートが出来たんだと思っていた。

だから、成仏しきれない心中事件の家族が、アパートに出没しているのだと…。

だからこそ俺は、花束を供えて、お菓子や水や線香を供えて、供養しようと思ったのだ。

…それなのに。

あのアパートは、近くで過去に心中事件が起きたというだけで、心霊現象とは無関係…?

…考えてみれば、毎晩のように響いている足音。

あれ、絶対4人分じゃないんだよな。

もっと大勢の足音だ。少なくとも6人とか7人とか…。

子供が走り回ってる…って感じでもないし。

それに、もう一つ気になる。

心中事件の跡地にこのアパートが出来たのなら、アパート全体で心霊現象が起きてなきゃ、おかしいじゃないか。という点だ。

これは初日から気になっていたことだ。他の部屋では心霊現象は起きていないのか?

それを確かめたくて、引っ越しの挨拶に行ったのに。ろくすっぽ話を聞けなかった。

201号室の住人は、ボケたおじいちゃんだったから、心霊現象が起きていても気づいていない可能性が高い。

202号室の住人は、重度の引きこもりで、勝手に部屋を防音工事してもらったせいで、幽霊の足音が聞こえないのだろう。

203号室の住人は、夜中は毎日のようにyourtubeの配信活動をしているらしいから、こちらも心霊現象には気づいていない。

205号室の住人は、出版社に寝泊まりして、アパートには荷物を取りに帰ってくるだけだから、心霊現象には遭遇していない。

などという理由から、心霊現象に気づいているのは、204号室に住む住人だけだと思っていた。

だけど、この土地で心中事件が起きて、その被害者の幽霊が彷徨っているのだとしたら。

二階だけじゃなくて、一階でも心霊現象が起きてなきゃ、おかしいよな?

それなのに、一階に住むスナックのおばさん曰く、一階では何も起きていないようだし。

…何で、この部屋だけなんだ…?

毎晩のようにやって来る、あの足音は何だ?

…などと、俺は必死に頭を働かせていると言うのに。




「絵本、面白いねー」

「…お前は呑気だな、ベリクリーデ…」

ベリクリーデだけは、今夜もとても元気、そして呑気だった。

お前を見てると、身体から力が抜けていくよ。