神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

「で、お兄さんは何処で働いてるの?」

今度は俺にお鉢が回ってきた。

まさか、聖魔騎士団所属の魔導師です、と本当のことを言う訳にもいかず。

「あのね、ジュリスはね、とっても強いまどっ、もごもごもご」

「あー、えぇと、自分はまぁ…お役所勤め、って奴です」

嬉々として本当のことを暴露しようとするベリクリーデの口を、半ば無理矢理塞ぎ。

俺は、作り笑いでそう取り繕った。

あぶねー。危うくバレるところだった。

嘘は言ってないぞ。一応、公務員だからな。

「へーぇ。若いのに優秀なのねぇ」

「いえ…そんなことは…」

「で、そんな可愛い彼女と同棲してるんでしょ?羨ましいわぁ」

「…いえ…。…そんなことは…」

うふふ、と冷やかすように笑うおばさん。

…やめてくれないか。マジで。

「あたしはね、隣町のスナックで働いてるの。はい、これ」

とか言って、おばさんは自分の名刺を差し出してきた。

名刺には、スナックの店名とおばさんの源氏名が書いてあった。

あー、そうなんだ…。

道理で、おしゃべりが上手いと…。

「お兄さんみたいな若い子は大歓迎よ。いつでも来てちょうだいね、サービスするわ」

「…そりゃどうも…。…でも、間に合ってます」

「ふふ、そうよねぇ。こんな可愛い彼女さんがいるんだもの」

違うっての。

…それよりも。

これ以上話が明後日の方向に向かう前に、強引にでも軌道修正を図る。

「あの、ちょっとお聞きしたいんですけど」

「なぁに?」

「俺達が住んでる…204号室のことについて。…前の住人の退去理由って、御存知ですか?」

そう聞くと、さっきまで機嫌良く喋っていたおばさんが、少し表情を歪めた。

「そうねぇ…。…こういうの、言っちゃって良いのかしらねぇ…」

「教えてください。…ここだけの話ってことにして」

「うーん…。あたしも詳しくは知らないのよ?」

「分かることだけで良いので」

間違いなく、今が押し時。

不動産で得られなかった、貴重な情報を得る絶好のチャンスだった。

「前の人ねぇ…。元々はねぇ、良い子だったのよ?よく挨拶もしてくれたし…。可愛い子だなーって思ってたの」

「…元々は?」

「そうよ。でも、出ていく一年くらい前からかしら…。何だか、様子がおかしくなってきたのよねぇ」

…出ていく一年前…?

この台詞が、俺は引っ掛かった。

以前の住人が「おかしくなった」のは、間違いなく、204号室で起こった心霊現象が原因だ。

でも、住人が「おかしくなった」のは、入居した当初からではない。

退去する一年ほど前から、段々とおかしくなり始めた。

つまり、以前の住人が入居したばかりの頃は、心霊現象は起きてなかった…?

…これって変じゃないか?

あの部屋が事故物件になったのは、以前の住人が入居する前だろ?

だから、心霊現象が起きていたなら、以前の住人が204号室に入居したその瞬間から、であるはずだ。

丁度、先日入居したばかりの俺達が、二日目にして早速心霊現象に見舞われたように。