神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

この降って湧いたチャンスを、モノにしない手はない。

「あの…。前の住人のこと、知ってるんですか?」

「そうねぇ。あの部屋はねぇ…。何だか色々言われてたものね」

何だ、その含みのある言い方。

「二階の部屋はねぇ。何だか変わった人がいっぱい入ってるのよね」

「変わった人…?」

「ほら、知らない?…そう、201号室のおじいちゃん」

…う。

あの…ボケたおじいさんだよな?

「知ってる?あのおじいちゃんね、昔は大企業に勤めてて、奥さんと一緒に暮らしてたんだけど。勤め先で不倫してたんですって」

「は、はぁ…」

「で、奥さんが怒って離婚したの。子ども達も寄り付かなくなっちゃって、すっかりあの部屋で一人ぼっちよ。自業自得よねぇ」

「…そうっすね…」

あのボケたおじいさんに、そんな秘められた過去が。

知りたくなかったなぁ…。

ベリクリーデが横にいるから、「不倫」なんて不穏な言葉は使って欲しくないんだが?

「でもね、ここだけの話、奥さんの方もこっそり若い男を連れ込んでたって話。お互い様よねぇ」

「…そうですね…」

知らねーよそんなこと。と言いたかったけど我慢。

「それからね、202号室の住人…」

あぁ。あの…俺とベリクリーデをババア呼ばわりした、引きこもりの男…。

「あの人ね、全然外に出ないのよ。あの部屋にもう何年も引きこもってて」

「そ、そうみたいですね…」

「元々母親と一緒に住んでたけど、小言ばかりの母親がうるさいからって、あの部屋から追い出したのよ。無理矢理。酷い話よねぇ」

「はぁ…」

「おまけに、人の声がうるさいって言って、母親に頼んで部屋の中を防音室に改装させたんですって。勝手なことするわよねぇ。大家さんも怒ってたわ」

…防音室…。…あの部屋、勝手に防音室に改造したのか。

「それに、203号室の住人も」

次々と出てくる、二階の住人の個人情報。

203号室…ユアチューバーの男性が住んでいる部屋である。

「あの人も怪しいわよねぇ。何の仕事してるのかと思ってたけど、聞いたところによると、なんかネットで稼いでるらしいわよ」

「はぁ…。…ユアチューバーやってるそうですね…」

チャンネル登録してくれって頼まれたよ。してねーけど。

「そうそう、それそれ。でも、そんなので稼げるのかしら?やっぱり若い子は、外に出てバリバリ働かなきゃねぇ」

「…」

その考えは…ちょっと前時代的なのでは?

「その点、205号室の人は偉いわよねぇ」

「あ…。えぇと、出版社に勤めてるとか…」

「そうそう。立派よねぇ。やっぱり若い人はああじゃなくちゃねぇ」

「…」

…別に良いじゃん。ユアチューバーだろうが、出版社勤めだろうが、魔導師だろうが。

他人に迷惑かけてないなら、それで良いと思うぞ。俺は。

「だけど、仕事が忙しくて滅多に帰ってこれないって言うでしょ?若いうちからあんな生活じゃぁねぇ。あんなんじゃ、恋人の一人も出来ないわよ」

やれやれ、と言わんばかりのおばさん。

…あんた結局、誰相手でも小言言ってんじゃん。