神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

しかし。

「ちょっと待ってください。こちらは冷静に…」

「あー、ごめんなさい。そろそろ、次のお客さんの予約の時間になるので」

とか言って。

不動産屋は、この話は終わりとばかりに、椅子から立ち上がった。

何だと。

さっき、お客さんはいないみたいなこと言ってたじゃないか。

「予約がある」なんて、間違いなく嘘。

この話を強引に終わらせ、俺達をさっさと追い出す為の口実だ。

…だが、引き下がらない訳にはいかなかった。

不動産屋の、この睨むような目つき。

これ以上食い下がっても、何かを教えてくれそうにはなかった。

それどころか、これ以上しつこく問い詰めると、警察を呼ばれかねない。

…仕方ない。引き下がるしかなさそうだ。

「ベリクリーデ、撤退だ」

俺は、小声でベリクリーデにそう告げた。

「…良いの?お話、なんにも聞けなかったよ?」

「分かってる。でもこれ以上はもう無理だ」

「…そっかー」

不動産屋が、これほど頑なな態度を取るのだ。

恐らくこの人も、以前の204号室の住人が、心霊現象に悩まされて精神を病み、退去したことを知っている。

だからこそ、これ以上悪い噂を立てられたくなくて、敢えて『コーポ シューティング・スター』の話題を避けようとしているのだ。

…それが分かっただけでも、収穫だと思おう。

「忙しいところ、お邪魔しました」

俺は慇懃に頭を下げて、ベリクリーデと共に不動産屋を後にした。