神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

最初からこうじゃなかったんだぞ。

つい10分ほど前、俺とベリクリーデはこの不動産屋にやって来た。

その時は、まだ非常に友好的だった。

「えっと…どうも」

「こんにちは。ようこそいらっしゃいました」

「あの、予約してないんですが、今良いですか?」

「どうぞ、どうぞ。丁度、他のお客様はいらっしゃらないので。おかけ下さい」

すぐに対応してくれ、しかも非常ににこやか。

俺達に椅子を勧めてくれ、営業スタイルを浮かべる。

「今日は物件探しですか?お二人で?」

「あ、いえ」

「アパートですか?それとも一軒家ですか?王都から地方まで、幅広い物件を取り揃えておりますよ。あ、勿論家賃の方も頑張らせていただいて…」

「いえ、違うんです。物件探しじゃなくて」

「?」

俺は心の中で一度深呼吸してから。

「聞きたいことがあって来たんです。…お宅に斡旋してもらったアパートのことで」

「…はい…?どちらの物件ですか?」

「『コーポ シューティング・スター』のことです」

「…」

その名前を出した瞬間。

露骨に、不動産屋の顔色が変わった。

…やっぱり、何か隠してるな?

で、さっきの台詞に戻るのだ。

「…あー…。…『コーポ シューティング・スター』ねぇ…」

部屋の空気が、一瞬にして10℃くらい下がったような気がする。

だが、ここまで来て怯む訳にはいかない。

「ご存知ですよね?勿論」

「えぇ…まぁ、一応は…」

一応は、って何だよ。もっとはっきり言え。

「俺達、数日前から204号室に住んでるんです。そこで…」

「…何ですか?」

…ここは、慎重に言葉を選ぶべきだな。

「あの部屋には良くない噂があるって聞いたんです。実際、俺達も…ちょっと、何度かあの部屋で、不思議なことが起きて」

「…」

「もしあの部屋に何かあるなら、教えて欲しいと思いまして」

…どうだ?

素直に教えてくれると良いのだが。この態度だと…。

「…はぁー…」

不動産屋は、露骨に大きな溜め息をついた。

そして、

「あのねぇ…。困るんですよね、そういう噂を流されると」

「え」

「最近の若者は、すぐにそれですよ。やれ家鳴りがした、やれ風の音がしただけで、幽霊だなんだって…」

ちょっと待て。何でこっちがイチャモンつけたみたいに言われてんだ?

「その程度で事故物件呼ばわりじゃ、やってられませんよ」

こっちは、「事故物件ですよね?」なんて一言も言ってない。

それなのに、自らあの部屋を「事故物件」と表現するなんて。

やっぱりあの部屋に曰くがあるということを、認めてるようなものじゃないか。

「俺はただ、あの部屋で何があったのか聞きたいだけです」

「何があった?…何もありませんよ。言いがかりをつけないでもらえますか」

「言いがかりって…。こちらは別に、言いがかりをつけてる訳じゃなくて…。ただ、あの部屋のことを知りたいだけなんです」

これは、紛うことなき俺の本心だった。

…本心だったのに。

「何も無いって言ってるでしょ。仮にあったとしても、あなた達に告知義務はないんです」

「そんな」

「やめてもらえませんかね。何も無いのに、事故物件だなんだと騒がれると困るんです。風評被害になるんで」

それは百も承知だけど。

だけど、その態度。

あんた、明らかになんか知ってるじゃないかよ。