神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

「…そっか」

ベルーシャは泣かなかった。怯えなかった。

喚くことも叫ぶことも、俺をなじることも殴ることもなかった。

代わりに。

「ありがとうね、言いたくないこと、教えてくれて」

何故か、俺に感謝の言葉を告げた。

「…ベルーシャ…」

なんて言ったら良いのか分からなかった。

気休めの励ましでは、ベルーシャの心を慰めることなど出来ない。

ましてや、俺は彼女の命を「奪う」側の存在なのだ。

そんな俺が…どうして、彼女を慰められるだろう。

「…すまない…」

ようやく、絞り出すように出てきた言葉は、こんなつまらないものだった。

謝るなら、最初から私を生贄になんてしないで。

ベルーシャは、そう言い返すんじゃないかと思った。

しかし。

「ううん。…良いの。私、クロティルダには感謝しかしてないよ」

「…感謝…?…何故…」

憎みこそすれ、感謝なんてする理由はないはずだ。

「ずっと傍に居てくれたから。私のこと、ずっと忘れないでいてくれたから」

「…」

「これからも忘れないでね。たまにで良いから、私のこと思い出して。それだけで、私は充分だから」

そう言って、ベルーシャは笑ってみせた。

…何故だ。

何故笑う。何故俺をなじらない?

お前に…こんな過酷な運命を押し付けたのは、俺なのに。

どうして…そんなに、優しく出来るんだ。

「俺には…お前が、分からない」

気づくと、俺はそう言っていた。

「どうして笑える…?自分の命が…明日、終わるというのに…」

「いつかその時が来るってこと、ここに来た時から分かってたから」

その為に、心の準備していたと?

…そんなはずがないじゃないか。

何十年、何百年と生きた老人でさえ、死の間際を恐れるというのに。

生まれて、まただったの20年かそこらしか経っていないようなベルーシャが、平然と耐えられるはずがない。

「怖くないよ。全然…怖くない」

「お前はっ…馬鹿だ…!」

気づくと。

俺は、ベルーシャに迫るようにして、そう訴えていた。

「お前の責任じゃない。お前は何も悪くない…!それなのに、何故お前が…俺の…大事な姫が、死ななければならない?」

「…クロティルダ」

「天罰だなんて…生贄だなんて、全部クソ喰らえだ。何の罪もない人間が死ぬなんて、そんな世界は間違ってる…!」

「…そんなこと言っちゃ駄目だよ。君は天使なんだから」

そうだな。その通りだ。

こんなことをケルディーサや、ましてや聖神ルデスが知れば。

俺も、ベルーシャ共々殺されてしまうかもしれない。

だけど、それが何だと言うのだ。

殺したいなら殺せ。俺も一緒に。

「お前は何故受け入れるんだ?何故、死にたくないと言わない?何故生きたいと言わないんだ…?」

「…」

「怖く…ないのか?死ぬことが…」

「…うん、怖くないよ」

ベルーシャは、俺の手を取って答えた。