神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

ベルーシャと散歩に行く約束をした、その翌日のことだった。




「…クロティルダ」

誰もいないはずの部屋の中に、俺を呼ぶ女の声がした。

ベルーシャではない。

「…ケルディーサか」

振り向くと、そこにいたのは俺と同じ天使。

“大天使アークエンジェル“第3位、メタトロン。

こと、ケルディーサ。

…ちなみに、俺の姉でもある。

「何の用だ」

ケルディーサは俺の質問には答えず、代わりに俺の真正面に置かれた「それ」を指差した。

「…どうしたの?それ」

俺は椅子に座り、テーブルの上に花瓶を置いていた。

そしてその花瓶を、じっと見つめていた。

いつまで眺めていても、飽きることはなかった。

「見ての通り、花だ」

「ふーん…?青い薔薇なんて珍しいわね」

そうだろう。

「ベルーシャ…。我が姫が、魔法の力で作ったそうだ」

本人が言っていた通り、この花は枯れない。

何日経っても、生命の息吹が失われることはなかった。

その煌めきが衰えることはなかった。

まるで、ベルーシャの命のように…美しく、咲き続けている。

しかしケルディーサは、花のことよりも。

「我が姫…ね」

俺の言葉尻を拾って、意味深に呟いた。

…。

「何の用だ」

俺は改めて、ケルディーサに尋ねた。

邪魔して欲しくなかったからだ。

「あなたって子は、折角久し振りに会ったのに、もっと言うことはないの?」

「言うこと?…特にないが」

「まったく…愛想がないのは相変わらずね。ケルビム様に迷惑をかけたりしてないでしょうね?」

ケルビムというのは、俺の上司である智天使ケルビムのことだ。

…余計なお世話、というものだ。

気になるなら、ケルビムに直接聞いてみると良い。

「俺は世間話をするつもりはない。言いたいことがあるならさっさと言ってくれ」

「そうね、じゃあ言うわ…。…生贄を捧げる準備が出来たわ」

「…」

俺は、思わず固まってしまった。

生涯で初めてだ。

頭が真っ白になる、という感覚を覚えたのは。

「聖神ルデスの命よ。今こそ生贄を捧げ、世界を滅ぼす時だと」

「…」

「実行は明日よ。…生贄にも、そう伝えておいて頂戴」

「…」

「…どうしたの?クロティルダ」

…さぁ。

…どうしたんだろうな?俺は…。

何故か、返す言葉が見つからなかった。