神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

「ね、凄いでしょ?綺麗でしょ」

「あぁ…。…そうだな」

「それね、枯れないんだよ。花瓶に入れておけば、ずっと咲き続けるの」

…え。

「…それは凄いな」

枯れないのか。これ。

まるで造花だな。

造花でさえ、ずっと挿しておくと少しずつ劣化していくのに。

ベルーシャの作った青い薔薇は、とても造花には見えない。

花びらも葉も、たった今咲いたかのよように瑞々しかった。

…いつの間にか、こんなものまで作れるようになったのか。

この程度は、ベルーシャの使う魔法の、ほんの一部でしかない。

「だから、この花はクロティルダにあげる」

「…何が『だから』なんだ?」

折角完成品が出来たんだろう。

俺に渡すのではなく、自分の研究の成果として持っておけば良いのに。

「え?…そうだな…。やっとこの薔薇が咲いてるのを見つけた時、それはクロティルダにあげようと思ったの」

「…」

…何故、俺に?

「私だと思って、大事にしてね」

「…。…分かった」

ベルーシャは、美しい微笑みを浮かべた。

…こんな花は、お前の代わりにはならない。

俺はそう言いたかった。…でも、言わなかった。

それは、あまりにも傲慢な台詞のように思えたからだ。

「ねぇ、クロティルダ」

「…何だ?」

「今度、また一緒にお散歩に行こうよ」

初めてベルーシャがこの天界に来て、一緒に海を見に「散歩」に行ってからというもの。

俺達は時折、散歩に出掛けていた。

行き先は様々である。最初は海だったが、次は幻想的な砂漠の都市を見に行ったり。

それから…竜が棲むという洞窟に、探検に行ったこともあったな。

それらの息抜きは、ベルーシャにとって数少ない楽しみの一つのようだった。

俺は最初、それに「付き合ってやる」という感覚だった。

…でもいつの間にか、俺もまたベルーシャと同じように。

ベルーシャと共に過ごす時間を、待ち望むようになっていた。

「分かった。…今度は何処に行くんだ?」

「そうだなぁ…。行ったことのないところに行きたいな。初めて見るものを、くろてぃると一緒に見てみたい」

「そうか」

初めて見るもの、か。

ベルーシャがここに来てから俺が見るものは、どれも初めてのものばかりだった。

今でも、ベルーシャの顔を見る度に、たった今初めて会った相手のような気がする。

その美しさと聡明さに、いつも感心させられる。

彼女がもし、地上にいれば。他の人間達と同じように暮らしていれば。

ベルーシャはきっと、優れた魔導師として、重宝されていただろう。

俺はベルーシャの眠っていた力を呼び覚まし、彼女に可能性を与えた。

しかし同時に、彼女が優れた魔導師として、人の為に生きる権利を奪ったのである。

果たして、ベルーシャにとってどちらが幸せな人生だったのか。

俺には判断出来ない。