神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

ベルーシャと「約束」をしたのは、その頃のことだ。

彼女…ベルーシャは、ずっと「自分が忘れられること」を恐れていた。

死ぬことよりも、生贄にされることもよりも…自分を忘れられることを恐れていた。

常にその恐怖に怯えながら、彼女は恐怖を振り払うように、魔導の訓練を続けていた。

やがて彼女は、非常に優れた魔導師になった。

もう、俺が教える必要はなかった。

彼女の魔導の才は、一度花開くと、留まるところを知らなかった。

誰よりも素晴らしい才能を持っていながら、それを驕ることはなく、常に自らを成長させていった。

俺はそんなベルーシャを頼もしく、心強く思うと同時に…恐れても、いた。

だって…ベルーシャが生贄の器として、完成してしまったら。

その時はいよいよ…ベルーシャは…。





「これを見て、クロティルダ」

彼女を天界に連れてきてから、何年が経っただろう。

幼い少女から、美しい女性に成長したベルーシャは。

昔から変わらない、さながら天使のような笑みを浮かべ。

俺に、花を差し出してきた。

…薔薇の花だ。

目が覚めるような鮮やかな色の、美しい青い薔薇の花。

その薔薇は、サファイアのような煌めきを放っていた。

「…どうしたんだ?これは」

「中庭の薔薇を、私が魔法で品種改良してみたんだ」

…とのこと。

あぁ…そんなことをしてたのか。

最近、よく中庭に入り浸っていると思っていたら。

こんなものを作ろうと…。

「やっと完成したの。…綺麗でしょ?」

「それは…そうだな。綺麗だ」

青い薔薇とは、珍しい。

しかも、こんな風に…まるでダイヤモンドを散りばめたような、キラキラと光る青い薔薇なんて。

「これでも、結構苦労したんだよ?なかなか思ってるような色にならなくて…」

「そうなのか?」

「そうなの。折角出来たと思ったら、今度は花びらが小さくて…。もっと大きな花びらが良いと思って、更に研究して…」

「…」

「大変だったけど、やっと出来たんだよ」

そう言って、ベルーシャは微笑んだ。

…それは良かったな。

ようやく、努力が実ったらしい。

これまでも、ベルーシャは似たような試みを何度か繰り返していた。

蜜のように甘い、黄金のリンゴを作ってみたり。

臭くない、どころか物凄く良い匂いのするラフレシアを作ってみたり。

真冬に咲く桜を作って、その下で冬の花見をしたり…。

そして、今度はこうして、煌めく青い薔薇を作ってみたらしい。