神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

クロティルダ曰く。

邪神イングレアという存在は、私達の神様、聖神ルデスよりも凶悪な存在なんだって。

聖神ルデス様が「光」を司る神だとしたら、邪神イングレアは「闇」を司る神。

邪神は人間を守らない。世界を守らない。

ただ破壊と殺戮を好み、この世界に混乱を巻き起こす存在。

人間が新しい神様を作ったら、いずれ、遠からず…この邪神イングレアとも対立する日が来るだろう。

そうなったら…今度こそ、世界は混沌の闇に包まれる。

…この破滅を止められるのは、聖神ルデスだけ。

だからこそ、聖神ルデスは今ある世界を滅ぼし、人間を滅ぼそうとしている。

その先に待っている、世界の未来を守る為に。

「…何だか難しい話だね…」

「理解出来なかったなら、もう一度説明しようか?」

「ううん…大丈夫」

多分もう一回聞いても、分かんないと思うから。

…でも、私達人間とは全く違う、もっと高い次元の話をしてるんだってことは分かる。

神様も神様なりに、色々考えての決断なんだろう。

その為に、私も、他の人間達も、世界そのものも犠牲になろうとしている。

何だか本末転倒って気はするけど。

「私はつまり、後の世界の為に生贄になるんだよね?」

「そうだな」

「…そっかー…」

私が死んで、未来の世界ではきっと、人間は新たな文明を、新たな歴史を創り上げる。

その為に私が犠牲になるなら…死んだ甲斐がある、ってものだね。

自分の死に意味があるなら、悔やむことなんて何もない。

…何もない、はずだ。

「…そっかー…」

私は島の研究所を見下ろしながら、再度呟いた。

その声が、悲しみに沈んでいるように聞こえたのだろうか。

「ベルルシア…。罪があるのは人間であって、お前ではない」

「私も人間だから、私の罪でもあるんだよ…きっと」

私だけ逃げるようなことはしないよ。

それから…。

「クロティルダ。ずっと思ってたんだけど、私のこと呼ぶ時…」

「…?呼び捨ては駄目だったか。…じゃあ…プリンセス?」

「…何でプリンセスなの?」

私、プリンセスじゃないよ。

「大仰な呼び方は嫌いか。なら、姫と呼ぼう」

「いや、姫も充分大仰だと思うけど…」

それに、私お姫様じゃないって。

「…嫌なのか?」

そんな不思議そうな顔して聞かれても…。

…ま、いっか。何でも。

「私、両親にベルーシャって呼ばれてたの」

「ベルーシャ?」

「うん。だからクロティルダも、私の名前を呼ぶ時は、ベルーシャって呼んで」

「…」

じー、と私を見つめるクロティルダ。

「…良いのか?父母のつけた呼び名を、俺が…」

どうやらクロティルダなりに、気を遣ってくれているらしい。

でももう良いんだ。他人に気を遣われるのは、もうたくさん。

「良いの。そう呼んで」

もう、この世に両親はいないんだから。

ベルーシャって呼んでくれる人は、クロティルダしかいない。

「…分かった。心がけよう」

「よろしくね、くろてぃる」

「…くろてぃる…?」

くろてぃるはくろてぃるだよ。ねぇ?