神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

クロティルダの話は、難しくて完全に理解することは出来なかった。

だけど、言いたいことは大体分かる。

人間は、神の創造物だ。

神様は人間を創り出した。文明を創り出した。そして魔導の力を与えた。

人間に知恵を与え、言葉を与え、文化を与えた。

神様は、そんな人間を天界から見下ろし、見守っていた。

…でも。

人間は、神様に与えられた魔導の力を、更に進歩させ、発展させ。

そして、自らの創造主である神様に牙を剥いた。

今の神様を上回る、もっと「都合の良い」神様を創ろうとした。

発展した魔導の力ならば、今の人間ならば、それが可能だ。

…お父さんも、そんな説明をしてくれたっけ。

子供が成長して大人になって、いつか親を越えるように。

人間達も、自らを創り出した神様を凌ぐ存在になろう、と。

新しい…人間の味方をする神様を創り出そう、と。

神様の為の人間ではなく。

人間の為の神様を創ろうと。

…その大きな野望の為に、こうして「新時代の神様」の研究が始まった。

今の進歩した魔導科学なら、それも可能なのだ。夢物語じゃないのだ。

今いる神様を殺し、人間が作った新しい神様を、その場に君臨させる。

そうすることで、人間は新たなフロンティアに進出することが出来る。

これが成功すれば、人間はもっと「上」に行ける。もっと進化した存在になれる。

それは人類の長い長い歴史の中で、必要な過程なのだ。

私の両親を始めとする研究者達は、そう考えた。

だけど神様は、そんな人間の不遜を許さなかった…。

思い上がった人類に鉄槌を下し、人間が創り出そうとしている「新時代の神様」もろとも。

この世界を創った神様が、その手で世界を破壊する。

…私は、その為の生贄という訳だ。

「…ふーん…」

つまり、人間の自業自得ってことだね。

思い上がったことを考えるから、神様に怒られるんだよ。

大人しく、神様が作ってくれた箱庭の中で暮らしていれば、こんなことにはならなかったのに…。

なまじ人間に知恵を持たせると、ろくなことにならないんだなーって。

…それにしても。

「神様って、意外と心が狭いんだね」

私はどうせ、いずれ生贄に捧げられる身だから。

何でも思ったこと、素直に言わせてもらうよ。

そしてクロティルダも、こんなことでは怒ったりしなかった。

「心が狭い?どういう意味だ」

「だって、人間が神様を越えようとしたから、神様は怒ってるんでしょ?」

「…まぁ、そうだな」

神様だっていうなら、もう少し広い心を持って欲しかったな。

「自分が人間に魔導の力を与えたのに、その力で神様を越えようとしたら、怒るんだね」

だったら、最初から人間に知恵なんて授けなければ良かった。

与えられた箱庭の中で、与えられたものを享受し、一切何の進歩もしない愚かな存在にしてしまえば良かった。

そうすれば、人間が神様を越えようとなんてしなかっただろうに。

「…そう言われれば、確かにその通りなんだが」

認めちゃうんだ。

クロティルダも神様に怒られちゃうよ。

「だが、それだけが理由なんじゃない。聖神ルデスは、人間がいずれ、邪神イングレアの力までもを利用しようとするのではないか、ということを危惧しているんだ」

「…邪神、イングレア?」

「聖神ルデスと対を成す、この世界のもう一人の神だ」

「…」

…それは初耳。

私達が知る神様の他に、もう一人神様がいたなんて。