神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

…クロティルダは、こういう場所は嫌いなんだろうか。

綺麗だと思うけどな…と、少し考えて。

そして、気づいた。

私が、なんと浅はかなことを言ってしまったかを。

「…ごめん。クロティルダにしてみれば…これは、人間の傲慢以外の何物でもないよね」

「…いや…」

天使であるクロティルダにとっては、これらの人間の建造物は、思い上がった人間の傲慢に他ならない。

こういうことをするから、人間は神に罰せられようとしているんだって。

私は…私だけは、それを理解するべきだった。

「ごめ…」

「謝る必要はない。この場所は人類の罪ではないのだから」

「…え」

違うの?

「自分達が理屈を練り上げた魔導で、自分達の島を作るのは結構だ。その程度、罪でも何でもない」

「…そうなの?じゃあ、何が…」

「本当の罪は、あの場所だ」

クロティルダは、眼下の水上都市ではなく、もっと先の地平線を指差した。

「…何処?」

「…目にしてみるか?」

「うん」

「良いだろう、ついてこい」

「あ、待って」

羽ばたいたクロティルダの後を追って、ついていった。

自分がこんなに速く飛べるとは思わなかった。

そのまま、30分近く私達は飛び続けた。

空を飛ぶ為に、30分も魔力を消費し続けたのに、私はほんの少しの疲労も感じていなかった。

以前の私だったら、絶対出来なかったことだ。

こんなところでも、自分の進歩を感じる。

「…ここだ」

ようやく、クロティルダは止まった。

「…ここ…?」

てっきり、また別の水上都市とか、あるいは島か何かがあるのかと思ったのに。

クロティルダが止まったのは、何もない海の上だった。

「ここが…人間の罪、なの?」

「そうだ」

「…私には何も見えないけど」

「本当か?」

え?

「本当に何も見えないか?…よく『見て』みろ」

「よく見ろって…。…あ」

クロティルダに指摘されて、私はようやく気づいた。

クロティルダが言わんとしていることを。

「ここ…景色がズレてる…」

「その通りだ」

この海域一帯に、幻覚魔法がかかっている。

何もない、ただの海の上に見えるけど。

それは、高度な幻覚魔法で覆い隠しているだけ。

あまりに違和感がなくて、あまりに巧妙に隠されていて、クロティルダに指摘されるまで私も気づかなかった。

物凄く…高度な幻覚魔法だ。普通の魔導師だったら、気づかないだろう。

だけど…一度気づいてしまえば、「本当の姿」を見ることは簡単だった。

島だ。

海の上に、緑で覆われた島があった。

まさに、絶海の孤島である。