神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

空を飛べるっていうのは便利だね。

クロティルダの翼は雲を裂き、空を駆け抜け。

あっという間に、視界いっぱいに青い景色が広がった。

同時に、、強い磯の香りが、ふわりと漂ってきた。

「うわぁ…」

…綺麗。

空を飛びながら海を真上から眺めるなんて、ロマンティックだね。

すると。

「手を離すぞ」

と、クロティルダが言った。

「え?ちょ、待って。手を離したら、私、落ちちゃう」

海のど真ん中にドボンなんて。

私、泳いで帰れるかな?

しかし、クロティルダの思惑は違っていた。

「問題ない。今のお前なら、ここまで来れば、俺の手を借りる必要はないはずだ」

「え…」

「自分で飛べる。…やってみろ」

自分で…浮遊魔法を使うってこと?

…以前の、Dランク適性の私では、絶対に出来ないことだった。

だけど…本来の力を取り戻した今の私なら…。

クロティルダは、私の手を離した。

途端に、私は一瞬、がくんと失速しかけたが。

「…plaf」

慌てずに、私は全身に魔力を込めた。

すると、私の身体は羽毛のように、ふわりと宙を舞った。

おぉ、凄い。出来た。

一度コツを掴んでしまえば、あとは簡単だった。

鳥のように、自由に身体を動かし、羽ばたくことが出来る。

「…言った通りだったろう?」

「そうだね。私…いつの間にか、こんなことまで出来るようになってたんだ…」

この短期間で、凄い進歩だ。

「まだまだ序の口だ。お前が望めば、この海を裂くことだって出来るだろう」

「…クロティルダ…」

「お前にはその力がある。全ての空を、海、大地を思うがままに手に入れる、その力が」

…そっか。

全然、その自覚はないけれど。

そうなのかもしれないね。…今の私なら。

もし私がそれを望むなら、の話だけど。

私は…今のところ、その予定はないかな。

それよりも、今目の前の美しい景色を、存分に楽しむことの方が優先事項だ。

「じゃあクロティルダ、競争しよう」

「…競争?」

「あの島の真上まで、先に辿り着いた方が価値ね。よーいスタート」

「待て、何を、」

言うが早いが、私は思いっきり駆け出した。

フライングした気分。

これはハンデだよ、ハンデ。

初めて自分の力で空を飛んで、ちょっと調子に乗っている…感も否めない。

だけど、折角空を飛べるんだよ?…楽しまなきゃ。

私は更に魔力を強くし、加速した。

ぽつんと点のように見えていた孤島が、ぐんぐんと近づいてきた。

これなら、勝負は私の勝ちかな。

「…ふむ。どうやら、俺は舐められているようだな」

私に置き去りにされたクロティルダは、焦ることなく、その場で私の背中を眺めながら呟き。

そして、眉を細めた。

「…では、大人の威厳を見せるとしよう」

クロティルダは、翼を大きく広げた。