神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

…これもまた、不思議なことだけど。

私は、クロティルダを憎む気にはまったくなれなかった。

本当に不思議だよね。

私の家族、この人に殺されたのに。

どうして私は、ちっともこの人を恨む気になれないんだろう?

…人、じゃなくて天使だけどね。

「…何も。ただぼーっとしてただけ…」

「逃げることを考えていたのか?」

「まさか。…何処にも逃げる場所なんてないよ」

「そうだな」

全部、君が奪っていったからね。

私の家族。私の居場所。

私が育ったあの家は、今頃どうなっているんだろう。

すると、クロティルダは私の心の中の疑問を見透かしたように。

「…お前の家は、もうない」

と、言った。

「…どういうこと?」

「お前の家族を殺害した後、家に火をつけて、全て燃やした」

「…」

そうだったんだ。

じゃあ…今頃、私の育った家は…何もなくなって、ただの更地になってるんだろうね。

「…どうして、そこまでしたの?」

私の家族を殺した時点で、そこはもう、私の居場所じゃない。

家だけ、建物だけ残ってたって仕方ない。

そこまでしなくても良かっただろうに。

しかし、クロティルダには別の思惑があったようだ。

「お前の家にあった『研究資料』を、全て破棄する為だ」

「研究…資料…」

私は、お父さんの研究室で見た、薬液漬けの「神様」のことを思い出した。

研究資料って、あれのこと?

「お前の両親は、人類が触れてはならない禁忌の研究を行っていた」

「…」

「だから、お前の家族も…家も、全て破壊させてもらった。…恨んでくれて構わない」

「…恨まないよ」

もう過ぎたこと。起きてしまったことを責めても仕方ないでしょ。

クロティルダだって、望んでそうしたんじゃないってことは分かっている。

この期に及んで私は、自分の家を燃やされたと言うのに、やはりクロティルダを恨む気にはなれなかった。

私って、薄情だね。

「もしかして、私が生贄…に選ばれたのは、そのせい?私の両親が、研究しちゃいけないことを研究してたから…その罰に」

「いや、それは関係ない。お前はただ、偶然賽の目に選ばれただけだ」

…あ、そう。

「それに、お前が生贄に捧げられれば、遠からず人類は皆、そして世界も全て滅びる。全てなかったことになる」

「…」

全て…なかったことに…か。

「…それじゃ、どうぞ」

「ん?」

「生贄にするって、つまり私のことも殺すんでしょう?」

「…」

私も遠からず、家族のもとに行くのだ。

クロティルダの言い分からすると、多分、この世に生きている全ての人々と一緒に。

だったら、いつかと言わず、今終わらせてしまえば良い。